等級制度・評価制度・報酬制度の違いとは?30〜100名企業の設計順序

System | 仕組み

「等級制度」「評価制度」「報酬制度」という3つの言葉は、人事の話をしていると必ずといっていいほど出てきます。ですが、この3つが実際に何の役割があるのか、どういう順番で作ればいいのかを明確に説明できる経営者・人事責任者は多くありません。

私は組織人事コンサルタントとして7年ほど、30〜100名規模の企業の制度設計を支援してきました。この規模の会社に共通するのは、3制度をバラバラに、思いついた順番で作ってしまい、あとから「なぜこの給与差があるのか説明できない」「評価しても給与が変わらないので誰も本気で取り組まない」といった機能不全に直面するパターンです。

この記事では、等級制度・評価制度・報酬制度がそれぞれ何を担っているのかを整理したうえで、30〜100名規模の会社がどの順番で着手すべきか、そして3制度がズレるとどんな機能不全が起きるのかを、コンサル現場で見てきた実例を交えて解説します。等級制度・評価制度それぞれの具体的な作り方は別記事に譲り、この記事は3制度全体の地図として読んでいただくことを想定しています。

等級制度・評価制度・報酬制度は、それぞれ何を担っているのか

3つの制度は、役割を家に例えると分かりやすくなります。等級制度は家の間取り図にあたります。社員一人ひとりが今どの部屋にいて、次にどの部屋に進むのかを示す枠組みです。評価制度は、その部屋の中でどれだけ動けているかを測るものさしです。半年や1年という期間を区切って、成果や行動を測定します。報酬制度は、測った結果を給与や賞与という数字に変換するルールです。

この3つは独立した制度ではなく、等級という枠組みの上で評価という物差しを使い、評価の結果を報酬という変換ルールで給与に反映する、という一本の線でつながっています。線のどこか一箇所でも欠けると、残り2つがどれだけ精緻に作られていても機能しません。

制度設計の相談を受けるとき、経営者からは「評価制度を入れたい」「給与テーブルを見直したい」という個別の要望として話が始まることがほとんどです。ですが実際に話を聞いていくと、その要望の裏側には等級という土台が整っていないという共通の事情が隠れています。個別の制度単体を直そうとする前に、3つの関係を一度整理しておくことが、遠回りに見えて一番の近道になります。

なぜ「等級→評価→報酬」の順番で設計する必要があるのか

多くの会社は、評価制度から手をつけようとします。等級という枠組みがないまま評価項目だけを作ると、何を基準に評価すればいいかという物差しがなく、評価者ごとに基準がブレてしまいます。逆に報酬から先に決めてしまう会社もあり、この場合は給与を決めた根拠を後から等級・評価に当てはめる作業になり、無理が生じます。

規模別の目安としては、以下のような順番が現実的です。

  • 30名前後: まず等級を3〜4段階の粗い枠組みで用意し、評価は成果と行動の2軸に絞って作る。報酬は当面、等級ごとの給与レンジを決める程度にとどめる。
  • 50名前後: 等級を4〜5段階に精緻化し、評価は半期ごとの運用に乗せる。評価結果と昇給・賞与を紐付ける報酬ルールを本格的に設計する。
  • 70〜100名: 職種別に等級・評価基準を分岐させ、報酬は等級×評価のマトリクスで昇給率・賞与係数を機械的に決める仕組みに移行する。

規模が大きくなるほど、等級の枠組みを先に固めておかないと、評価・報酬の設計をやり直すコストが跳ね上がります。等級制度そのものの作り方は、等級制度の具体的な作り方はこちらで7ステップに分けて解説していますので、着手する際はあわせて確認してください。

3制度がズレると、現場で何が起きるか

3制度の連動が崩れたときに何が起きるかは、教科書よりも現場の実例のほうが伝わると思います。ここで紹介する事例は、複数の支援先の状況を組み合わせた仮名の合成例です。

M社(仮名、従業員45名規模、複数の支援先を合成した例)は、等級制度だけを先に整備していました。5段階の等級と定義書はきちんと用意されていたのですが、評価制度がなく、昇格の判断は社長の主観に頼っていました。等級はあっても評価に反映されないため、社員からは「頑張っても給与が変わらない」という声が出て、等級表そのものが形だけの掲示物になっていました。

一方、S社(仮名、複数の支援先を合成した例)は評価制度を先に作りました。目標管理シートを整えて半期ごとに評価をしていたのですが、等級という物差しがなかったため、評価者ごとに「A評価」の基準がまったく違っていました。営業部長のA評価と管理部長のA評価が指している水準が違い、評価会議のたびに調整に時間を取られていました。

もう一つ、T社(仮名、複数の支援先を合成した例)は報酬だけを先に決めていました。採用競争力を意識して給与テーブルを先に作り、あとから等級と評価を後付けしたところ、既存社員と新卒社員の給与差を説明する物差しがなく、給与に対する不満が離職の引き金になっていました。

3社に共通しているのは、どれも制度そのものは「悪くない」ということでした。等級表も評価シートも給与テーブルも、単体で見れば標準的な水準で作られていました。問題は、3つが連動する順番と接続点を設計していなかったことにありました。

報酬制度は、等級×評価のマトリクスで昇給・賞与を決めるのが原則

報酬制度を設計するときの基本原則はシンプルで、昇給も賞与も「等級」と「評価」という2つの軸のかけ合わせで決める、という原則です。

昇給であれば、等級ごとに給与レンジ(下限・上限)を定めておき、評価結果に応じてレンジの中でどれだけ昇給させるかを決めます。同じ評価結果でも、レンジの下のほうにいる社員は昇給幅を大きく、上限に近い社員は小さくする、といった調整をするのが一般的です。

賞与であれば、等級ごとに基準額(月給の何ヶ月分か)を設定し、評価結果に応じて係数をかけて金額を決めます。評価がB(標準)なら係数1.0、Aなら1.2、Cなら0.8、といった形です。昇給幅・賞与係数の具体的な数値は業種や経営状況によって変わりますが、私が現場で設計するときの目安としては、昇給は年1回で数パーセントから十数パーセントの幅、賞与係数はB評価を基準に上下0.2〜0.3程度の刻みで作ることが多く、極端な差をつけすぎないほうが運用が長続きします。

このマトリクスを先に決めておくことで、昇給・賞与の金額を「社長がその都度判断する」状態から「ルールに沿って機械的に算出する」状態に変えられます。金額の根拠を説明できるようになるため、給与に対する不満や不公平感を大きく減らせます。

報酬制度は、等級・評価の2つが固まって初めて設計できる制度です。等級・評価がまだ揺れている段階で報酬のルールから固めようとすると、T社の例のように土台のない上物を作ることになるため、順番を守ることが結果的に近道になります。

自社は今どこにいるか——3制度の整備状況を確認するチェックリスト

ここまで読んで、自社が3制度のどの段階にいるかを確認したい方向けに、簡単なチェックリストを用意しました。

  • 等級の枠組み(何段階で、何を基準に区切るか)が文書として存在するか
  • 評価の基準(何を測るか)が等級ごとに違う水準で設定されているか
  • 評価結果が昇給・賞与にどう反映されるかのルールが決まっているか
  • 管理職への昇格基準が、等級の定義と接続しているか

1つ目が未整備であれば、まず等級から着手する段階です。等級制度の具体的な作り方は、こちらで7ステップと5段階の定義例として解説しています。

2〜3つ目が未整備であれば、評価制度の設計に進む段階です。評価制度の最小構成の作り方は、評価制度の最小構成の作り方はこちらで、30〜100名向けの5ステップとして解説しています。

4つ目については、等級の枠組みと管理職への登用基準が接続していないと、昇格の判断が属人化しやすくなります。管理職登用基準の作り方は、管理職登用基準の作り方で、等級と昇格基準の接続点もあわせて解説しています。

自社の人員だけで3制度を並行して設計しきれない、あるいは着手順序の判断そのものに自信が持てないという場合は、外部のコンサルに一部を任せるという選択肢もあります。費用感については、人事制度設計コンサルの費用相場にまとめていますので、自社でどこまでやるかを判断する材料にしてください。

よくある質問

Q. 等級制度と評価制度、どちらを先に作るべきですか。 A. 等級を先に作ることをおすすめします。評価の基準は「何を測るか」を決める作業ですが、その手前に「誰を、どの水準で見るか」という枠組みがないと、評価項目を作っても運用の途中でブレてしまうことが多いためです。

Q. 報酬制度だけを先に見直すのは避けたほうがいいですか。 A. はい、避けたほうが安全です。等級・評価が固まっていない状態で給与テーブルだけを先に決めると、あとから等級・評価を後付けすることになり、既存社員との整合性を説明できなくなるケースをこれまで何度も見てきました。

Q. 3制度を一気に作り直す必要がありますか。 A. 必要はありません。30〜100名規模であれば、等級を粗い枠組みで用意し、評価を最小構成で運用しながら、報酬のルールを少しずつ精緻化していくやり方のほうが、現場の混乱が少なく定着しやすい傾向があります。

まとめ——3制度は「同時に」ではなく「順番に」設計する

等級制度・評価制度・報酬制度は、それぞれ別の役割を持ちながら、等級という枠組みの上に評価という物差しを乗せ、評価の結果を報酬という変換ルールで給与に反映する、一本の線でつながった制度です。

3つを同時に完璧に作ろうとする必要はありません。規模に応じて等級→評価→報酬という順番を守りながら、少しずつ整備していくほうが、現場で機能する制度になります。

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