結論、社労士とコンサルの違いは「独占業務」か「制度設計」かで分かれます
社労士と人事コンサルの違いを一言でいうと、法律で定められた独占業務を担えるかどうかです。社労士は労働・社会保険関係の書類作成や手続き代行、行政への提出代行を独占業務として行える国家資格者です。一方の人事コンサルには法律上の独占業務がなく、評価制度や等級制度、組織設計といった「会社が独自にルールを作る」領域を担当します。
ただし、30〜100名規模の成長企業の経営者や人事責任者にとって本当に知りたいのは、この業務範囲の違いそのものより「うちの会社は今、どちらに何を頼めばいいのか」という発注の順番だと私は感じています。私はこれまで複数の成長企業の制度設計に伴走してきましたが、社労士との役割分担で迷う経営者に何度も出会ってきました。
先に結論を言うと、専任の人事担当者がいない段階では、まず社労士に労務リスクの土台を固めてもらい、組織が育って評価や等級のルールを作る段階に入ったところで人事コンサルを追加するという順序が、多くの成長企業に当てはまります。この記事では、その判断を具体的なチェックリストに落とし込んで説明します。
社労士にしかできないこと、独占業務と法律上の根拠
社労士の独占業務は社会保険労務士法という法律に定められています。具体的には、労働保険・社会保険の申請書類の作成(同法第2条第1項第1号にあたる1号業務)や提出の代行(同項第2号にあたる2号業務)、そして労務管理や社会保険に関する相談・指導(同項第3号にあたる3号業務)です。なお、個別労働紛争のあっせん代理は、この3号業務とは別に、追加の試験に合格した「特定社会保険労務士」のみが行える業務である点には注意が必要です。この根拠は厚生労働省のページと法令検索でも確認できます。
参考: 厚生労働省「社会保険労務士制度」、e-Gov法令検索「社会保険労務士法」
労働保険の年度更新、社会保険の資格取得・喪失手続き、就業規則の届出、労務トラブルが起きたときの窓口対応。これらは資格を持つ社労士でなければ代行できない業務です。無資格のコンサルタントがこの領域に手を出すと、社会保険労務士法違反になる可能性があります。ここは私自身、コンサルとして仕事をする上で明確に線を引いている部分です。
もっとも、法律の条文をどこまで厳密に適用するかは個別の事情によって判断が分かれる場面もあります。自社の状況が独占業務に該当するかどうか迷う場合は、断定せずに社労士本人へ確認することをおすすめします。
私が発注者側の立場でよく受ける質問に「顧問社労士がいれば人事の相談はすべて任せられるのか」というものがあります。答えは半分だけ正解です。労務トラブルが起きたときの初期対応や、就業規則の法令適合性のチェックは社労士に任せて問題ありません。ただし、評価制度をどう設計するか、等級を何段階にするか、昇格の基準をどう定義するかといった、会社独自のルールづくりまで社労士の業務範囲に含まれているとは限りません。社労士事務所によっては人事コンサルティングも提供していますが、それは社労士としての独占業務とは別の、任意のサービスとして提供されているケースがほとんどです。この線引きを理解しておかないと、顧問契約の範囲を超えた期待を持ってしまい、後から「思っていた相談内容と違う」というすれ違いが起きやすくなります。
人事コンサルの役割は、会社ごとのルールを設計すること
人事コンサルの仕事は、法律で決まっていない部分、つまり会社が自分たちで決めるべきルールを一緒に作ることです。評価の項目をいくつに絞るか、等級を何段階に区切るか、昇格の可否を誰がどう判断するか。こうした会社独自のルールは、労働基準法に違反しない範囲であれば自由に設計できます。だからこそ正解がなく、伴走してくれる専門家の力が必要になる領域だと私は考えています。
評価制度の具体的な作り方については、評価制度の作り方|中小企業が失敗しない順番と最小構成で手順を解説していますので、あわせて参考にしてください。
社労士とコンサルの違いをもう一段深く見ると、社労士は「今のルールを法律に沿って正しく運用する」役割で、コンサルは「これからのルールを会社の実情に合わせて設計する」役割だといえます。ここまでは既存のいろいろな記事でも触れられている内容です。私がこの記事で伝えたいのは、この先の「では実際どちらに、いつ頼むのか」という部分になります。
判断が割れやすいグレーゾーン、規程整備と評価制度設計の境界
社労士とコンサルの役割が重なって見えやすいのが、就業規則や賃金規程の整備です。就業規則そのものの作成・届出は社労士の業務範囲ですが、その中に書き込む評価制度や等級制度の「中身」の設計は、コンサルの領域になります。
私が制度設計の現場で見てきた例では、ある成長企業(複数の実例を合成した仮名の会社です)で、就業規則の改定と評価制度の刷新を同時に進めようとして、社労士とコンサルのどちらが何を決めるのか曖昧なまま進行し、規程の条文と評価シートの内容がずれてしまったことがありました。
このときは、まず社労士に就業規則の条文レベルの整合性(賃金規程との整合、労働基準法上のリスク)を確認してもらい、私たちコンサル側は評価項目や等級区分の設計案を先に固めた上で、その内容を条文に落とし込む段階で社労士にレビューしてもらうという順番に整理しました。規程の「器」は社労士、制度の「中身」はコンサル、そして最後にもう一度社労士が法令面をチェックするという役割分担です。この調整には数回のすり合わせが必要でしたが、法的リスクと現場の納得感の両方を確保できたと感じています。
等級制度の設計手順は等級制度の作り方|30〜100名企業の7ステップと5段階の定義例で、管理職の登用基準は管理職登用基準の作り方|5ステップで属人化を防ぐで詳しく扱っていますので、規程に落とし込む前の設計段階で参照してもらえればと思います。
30〜100名企業のための契約順序チェックリスト、3つのパターン
ここからが本題です。専任の人事担当者がいない30〜100名規模の企業が、社労士とコンサルのどちらを先に、あるいは両方を契約すべきかを、3つのパターンに分けて整理しました。
パターン1、社労士のみで足りる場合。従業員数が増えて社会保険や労働保険の手続きが煩雑になってきた、就業規則を最新の法改正に対応させたい、労務トラブルの相談窓口がほしい。こうした悩みが中心であれば、まず社労士との顧問契約から始めて問題ありません。評価制度や等級制度に大きな不満が出ていない段階で、コンサルを急いで入れる必要性は低いというのが私の実感です。
パターン2、コンサルのみで足りる場合。労務手続きは既に別の社労士に依頼していて特に問題がない、あるいは労務担当者が社内で回せている状態で、悩みの中心が「評価制度が形骸化している」「等級と給与の連動がおかしい」「管理職の登用基準がない」といった制度設計側にある場合です。この場合は既存の社労士との契約を維持しつつ、制度設計だけをコンサルに依頼する形が無駄がありません。
パターン3、両方が必要な場合。専任人事がゼロで、労務手続きと制度設計の両方が滞っている状態です。30〜100名という規模は、法令対応と制度設計が同時多発的に発生しやすいフェーズだと私は捉えています。人数が増えるにつれて社会保険の手続き件数も、評価や昇格をめぐる社員からの不満も同時に増えていくのに、それを受け止める専任の担当者がまだ社内にいない。この板挟みの状態こそが、30〜100名企業に特有の悩みだと感じています。
この場合、私がすすめているのは、最初に社労士と契約して労務リスクの土台(未払い残業や社会保険の手続き漏れなど)を固め、土台が整った段階で評価・等級制度の設計にコンサルを入れるという順序です。土台がない状態で評価制度だけ先に作っても、労務リスクが残ったままになりやすいためです。たとえば残業代の計算方法があいまいなまま新しい評価制度を導入すると、評価が上がって役職が変わった社員の残業代の扱いをめぐって、新たなトラブルの火種を抱え込むことになりかねません。順序を間違えると、コンサル側で設計した制度が労務面でつまずいてしまうことさえあります。だからこそ私は、両方が必要なケースでは必ず社労士を先に、というシンプルな原則を守るようにしています。
チェックリストとしてまとめると、次のようになります。
- 直近の悩みが「手続き・届出・法改正対応」なら社労士から
- 直近の悩みが「評価・等級・昇格基準」ならコンサルから(既存の社労士契約はそのまま維持)
- 専任人事がゼロで両方が滞っているなら、社労士で土台を固めてからコンサルを追加
- 就業規則に評価制度の中身を書き込む段階では、両者のレビューを両方通す
まとめ、次に取るべきアクション
社労士と人事コンサルの違いは、法律で定められた独占業務を持つかどうかにあります。ただし発注する側にとって本当に大事なのは、その違いを知った上で、自社が今どのパターンに当てはまり、どちらから声をかけるべきかを判断することです。
この記事のチェックリストで「コンサルのみ」「両方必要」に当てはまり、まず評価制度の設計から着手したいという場合は、自社だけで進められるかどうかを人事評価制度はコンサルに頼まず自社で作れる?30〜100名企業の判断基準と作り方で確認してみてください。すでに社労士との顧問契約があり、次は制度設計のフェーズに進みたいという方は、こちらのお問い合わせフォームから相談を受け付けています。
なお、この記事で紹介した独占業務の範囲や個別の法解釈については、最終的には社労士本人への確認をおすすめします。会社ごとの契約形態や業務の実態によって判断が変わる部分もあるため、この記事はあくまで発注前の整理の材料として使っていただければと思います。社労士とコンサルという二つの専門家をどう組み合わせるかは、会社の成長フェーズによっても変わっていきます。今の自社がどのパターンに近いのか、まずはこの記事のチェックリストで一度整理してみてください。
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