9割の会社が同じ間違いをする

初めて管理職を置くとき、ほとんどの経営者は同じ判断をします。「一番成果を出しているあいつに任せよう」。

無理もない判断です。実績は明確だし、本人への報酬にもなるし、周囲も「まあ、あの人なら」と納得しやすい。

でも私の経験では、これが高確率で失敗する。しかも、失敗したときの損害が大きい。単に管理職が機能しないだけでなく、会社として取り返しのつかないものを失うことがあります。

「別の競技」に前の競技の成績で選手を選んでいる

誤解のないように言いますが、エースが無能になるわけではありません。問題は能力の種類が違うことです。

プレイヤーの成果は「自分が動いた量×質」で決まる。マネージャーの成果は「人を通じて出した量×質」で決まる。この二つは、文字通り別の競技です。

私がよく使うたとえなんですが、100m走のチャンピオンを、タイムが速いからという理由で監督にするようなものです。走る能力と、人を走らせる能力は別。

そしてプレイヤーとして優秀な人ほど、この切り替えに苦しむ傾向がある。「自分でやれば確実に成果が出る」という成功体験が強いからこそ、人に任せることに心理的な抵抗がある。

三重損失——失敗のコストは想像より大きい

エース昇格が失敗した場合に起きる典型的な経過を、私は「三重損失」と呼んでいます。

まず、エースが管理職業務に時間を取られて、本人の売上が落ちる。次に、マネジメントが機能しないから部下が辞める。最後に、「プレイヤーとしてはよかったのに」と本人が自信を失い、エース自身も辞める。

最大の戦力、管理職ポスト、チームの部下。これを同時に失う。30〜50人の会社にとって、これは事業が1年止まるレベルのダメージです。

サイバーエージェントの教訓——外から幹部を入れても同じ

サイバーエージェントの事例も示唆的です。同社は上場後、外部から大量に中途幹部を採用しました。実績のある人材を連れてくれば組織は回る、という判断だったはずです。

結果は逆。既存メンバーとの溝が広がり、退職率が3年連続で30%を超えた。

ここから学べるのは、「実績のある人を管理職に据えれば解決する」という発想自体が危険だということ。外からでも中からでも、実績ベースの人選は同じ罠にはまります。

私が使っている人選の3基準

では何を見て選ぶか。私が面談で確認しているのは次の3つです。

人の変化に気づけるか。「最近、後輩の様子が変だと思って声をかけたことはありますか?」と聞きます。具体的なエピソードが即座に出てくる人は、すでにマネジメントの素地がある。「特にないです」という人は、今の段階ではまだ早い。

自分のやり方を言語化できるか。「あなたはなぜ成果が出ているんですか?」に対して、「気合いです」「お客様のことを考えているから」としか返ってこない人は、人に再現性を渡せない。「初回訪問では受注を狙わず、相手の決裁構造を聞き出す」のように工程で語れる人は、部下を育てられます。

耳の痛いことを伝えた経験があるか。 マネージャーの仕事には、期待に達していないことを本人に伝える場面が必ず含まれます。みんなに好かれているけど誰にも指摘したことがない、という人は、この局面でつまずく。

この3つは、数字でも資格でもなく、行動の履歴で見るものです。だから面談で確認するしかない。手間はかかりますが、三重損失のリスクを考えれば、この手間を惜しむべきではないと思っています。

任命して終わりではない

3基準で選んでも、それで成功率は5割くらいだと考えてください。残りの半分は任命後の設計です。

最低限やること。役割定義を文書で渡す。プレイヤー業務との時間配分を会社が決める。最初の半年は社長が週1で壁打ち相手になる。

特に時間配分を決めないと、新任マネージャーは確実にプレイヤーに戻ります。この構造についてはプレイングマネージャーの記事で詳しく書いています。

組織づくりの全体像はピラー記事をご覧ください。


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社員が増え、初めて管理職を置くことになったとき、ほとんどの経営者は同じ判断をします。

「一番成果を出しているあいつに任せよう」

自然な発想です。実績は誰の目にも明らかで、本人への報酬にもなり、周囲も納得しやすい。しかし組織人事のコンサルタントとして数多くの「初めての管理職づくり」を見てきた立場から言うと、この定石は高確率で失敗します。

この記事では、エース昇格がなぜ失敗するのか、失敗したとき会社が何を失うのか、そして実績に頼らずに管理職を選ぶための3つの基準を解説します。

エース昇格はなぜ失敗するのか

「別の競技」に、前の競技の成績で選手を選んでいる

誤解のないように先に言うと、エースが無能になるわけではありません。問題は、プレイヤーとマネージャーでは求められる能力がまったく別の競技であるのに、選考基準が前の競技の成績になっていることです。

両者の成果の方程式を比べると、違いは明確です。

  • プレイヤーの成果 = 自分が動いた量 × 質
  • マネージャーの成果 = 人を通じて出した量 × 質

営業成績1位を取る力と、部下の強みを見抜き、任せ、育てる力。この2つはほとんど相関しません。むしろ「自分でやれば確実に成果が出る」という成功体験が強い人ほど、人に任せることに苦痛を感じる傾向すらあります。

100m走のチャンピオンを、タイムが速いという理由で監督にする——エース昇格とは、構造的にはこれと同じことをしています。

失敗のコストは「三重損失」になる

エース昇格の失敗が深刻なのは、失うものが一つではないからです。典型的な経過はこうです。

  1. エースがマネジメント業務に時間を取られ、本人の売上が落ちる
  2. マネジメントは機能せず、放置された部下が辞める
  3. 「プレイヤーとしては優秀だったのに」と本人が自信を失い、エース自身も辞める

会社は、最大の戦力・管理職ポスト・その部下、の3つを同時に失います。私はこれを「エース昇格の三重損失」と呼んでいますが、30〜50名規模の会社にとってこの損失は、事業の成長が1年止まるレベルのインパクトがあります。

それでもエース昇格が繰り返される理由

これほど失敗例が多いのに、なぜ各社は同じ判断をするのか。理由は2つあります。

第一に、他に基準がないからです。マネジメント適性は目に見えず、実績は見える。見えるものに頼るのは自然です。

第二に、報酬の階段が1本しかないからです。「報いる手段が昇格しかない」会社では、エースを処遇するためにマネジメントを任せるしかなくなります。これは人選の問題ではなく、等級・報酬設計の問題です(専門職としてのキャリアコースを作ることで解消できます)。

実績に頼らない人選:3つの基準

では何を見て選べばよいのか。実務で使っている基準は次の3つです。いずれも、面談と過去の行動事実から見極められます。

基準1:人の変化に気づけるか

マネジメントの起点は観察です。「最近、後輩の様子が変だと気づいて声をかけた」「チームの誰かが詰まっているとき、頼まれる前に動いた」——そうした行動の履歴がある人は、役職がなくてもすでにマネジメントを始めています。

面談では「最近、周囲のメンバーで調子を崩していた人はいますか?それにいつ気づきましたか?」と聞いてみてください。具体的なエピソードが即座に出てくるかどうかで、観察の習慣の有無がわかります。

基準2:自分の成功パターンを言語化できるか

人に教えるには、自分のやり方を分解して説明できる必要があります。「なぜあなたは成果が出ているのか?」と聞いたとき、「気合です」「お客様のことを考えているからです」としか答えられない人は、再現性を人に渡せません。

逆に、「初回訪問では受注を狙わず、相手の決裁構造を聞き出すことに絞っている」のように工程で語れる人は、部下を育てられる素地があります。

基準3:耳の痛いことを伝えられるか

マネージャーの仕事には、期待に届いていない事実を本人に伝える場面が必ず含まれます。「いい人」で全員に好かれているけれど、誰にも指摘をしたことがない人は、ここでつまずきます。

過去に、同僚や先輩に対してでも「言いにくいことを、関係を壊さずに伝えた」経験があるか。これは本人へのヒアリングと周囲の評判の両方から確認できます。

任命して終わりではない:昇格後の設計が半分

3基準で選んでも、それで成功率が5割を超える程度だと考えてください。残りの半分は昇格後の設計です。

最低限やるべきは、①マネージャーの役割定義を文書で渡す(何をすれば「成果」なのかを明示する)、②プレイヤー業務との時間配分を会社が決める、③最初の半年は社長が週1で壁打ち相手になる、の3つです。

特に②を曖昧にすると、新任マネージャーは確実に「自分でやった方が早い」というプレイングマネージャーの沼にハマります。この問題の構造と処方箋は、次回の記事で詳しく扱います。

まとめ:人選の失敗は、基準を持てば避けられる

  • プレイヤーとマネージャーは別の競技。前の競技の成績で選ばない
  • エース昇格の失敗は「戦力・ポスト・部下」の三重損失になる
  • 見るべきは実績ではなく、観察力・言語化力・指摘力の3つ
  • 任命後の役割定義と時間配分の設計までが「管理職づくり」

初めての管理職づくりは、会社の組織文化の原型を決める意思決定です。ここで作った「管理職像」が、その後に続く全マネージャーの手本になるからです。だからこそ、定石ではなく基準で選んでください。


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