目標管理制度は時代遅れなのか、結論を先に言います
「目標管理制度は時代遅れ」というキーワードで検索すると、多くの記事が「時代遅れなのではなく運用が悪いだけ」という結論に着地します。半分は正しく、半分は間違っています。運用の問題だと言われても、自社の運用がどの程度悪いのか、見直すべきラインを超えているのかを判断する材料がなければ、結局「うちはどうすればいいのか」という一番知りたいことが分からないままだからです。
私は組織人事のコンサルタントとして、30〜100名規模の成長企業の制度設計に数多く関わってきました。この規模の会社に共通するのは、専任の人事担当がいないまま、経営者や現場のマネージャーが本業の合間に目標管理制度を回しているという状況です。
この記事では、これから目標管理制度を改善しようとしているケースに対する論点整理とアクションプランについて解説します。
まず、自社の目標管理制度が見直しラインを超えているかを判定できるチェックリストを実施し、そのうえで、廃止すると決めた場合にどう代替案へ移行するか、専任人事がいない会社でも回せる現実的な手順まで踏み込みます。あわせて、私自身が最初に設計した目標管理制度がうまく機能しなかった経緯と、そこからどう考え方を変えたのかについて失敗談として共有いたします。
見直しのサインチェックリスト——7項目のうちいくつ当てはまるか
30〜100名の成長企業が実際に直面しやすい7つの兆候を挙げます。当てはまる数に応じて見直しが必要か大まかに判断できます。
3個以上当てはまる場合
制度そのものより先に運用のやり方を見直すべきサインです。目標設定のプロセスや評価との連動の仕方を変えるだけで改善する余地が大きい状態と言えます。
5個以上当てはまる場合
運用改善では追いつかない可能性があります。抜本的に目標管理制度を見直す必要があります。見直す方向性として、そもそも目標管理制度を廃止する、現行の目標管理制度を改善する、全く新しい目標管理制度に刷新する3パターンがあります。
私が最初に設計した目標管理制度が機能しなかった理由
まず制度内容、または制度運用の改善に臨む前に、目標管理制度を導入した場合の失敗事例から、うまく目標管理制度が回らない原因を学び同じ轍を踏まない参考になればと思います。
以前、公開記事の評価制度導入の順番についての記事や組織の壁に関する記事では、目標管理制度が導入後にうまく機能しないことがあるという話として、SmartHRの事例に軽く触れました。同じような場面を、私自身もクライアント企業の支援で何度も経験してきました。ここでは、そのうちの一つの経緯を詳しく書きます。なお以下は複数のクライアント企業の経緯を合成した仮名の事例で、特定の一社を指すものではありません。
40名規模のIT系企業A社を支援したとき、私が最初に設計したのは、四半期ごとに個人目標を立て、達成度を賞与に直結させる、いわゆる教科書的な目標管理制度でした。設計段階では理にかなっていると考えていました。目標が明確になれば社員は迷わず動けますし、達成度を賞与に反映すれば頑張った人が報われます。当時の私はそう判断していました。
導入から半年ほどで、現場から違和感の声が上がり始めました。目標設定の面談に毎回1時間以上かかり、管理職が疲弊しているという声、そして目標が達成できそうな水準に自然と収まっていくという声です。私は最初、「目標設定の定性的な設定の部分がフォーマットがなく難しい」「目標の立て方が属人的」だと考え、目標設定のフォーマットを細かく作り込む方向で手を打ちました。これが判断としては誤りでした。
社員に個別にヒアリングして分かった問題点を整理すると大枠として以下の3点です。
- 目標の形骸化:目標達成度合いを賞与や評価に直結できる評価設計のため、目標が賞与に直結するがゆえに、社員は「達成できる目標」を無意識に選ぶようになってしまう
- 目標設定の負担に耐えられない:専任の人事担当がおらず、目標のすり合わせや進捗確認は各マネージャーや上司が本業と兼務でこなすため、大事な目標設定のPDCAが「ただの作業」と化す
- 目標設定のPDCAの頻度が事業実態に合わない:四半期ごとの目標設定は、事業計画そのものが市場の変化に応じて頻繁に見直される会社の実態と乖離がある
つまり、制度の設計思想そのものに欠陥があったというより、専任人事がいない30〜40名規模の会社の実行力に対して、制度が要求する運用コストが重すぎたのです。
上記問題に対し、目標管理制度における機能面と運用面での問題発生の原因を以下のように整理しました。
これらの原因を踏まえ、制度を作り込んで精緻にすることではなく、逆に機能を削りシンプルな目標管理制度にしました。また、目標設定と評価の連動を切り離し、目標はチームの方向確認のための軽いすり合わせに位置づけ直し、評価は目標達成をするまでの行動面を中心に見るという役割分担に変えたのです。切り替えてからは目標設定にかかる時間が大幅に減り、達成しやすい目標レベルまでわざと落とすという行為が少なくなりました。
また、組織の人事機能を外部人事委託という形で目標管理のPDCAを含めた人事機能を外に出し、第三者視点を含めた管理機能を設置しました。
目標管理制度を廃止するオプションを選択する場合
目標管理制度はいらない、無意味と感じているから廃止するという論理には注意が必要です。なぜなら、目標管理制度を廃止するためには以下の8つの論点に対しすべてクリアにしなければいけないからです。
何を廃止し、何を残すのか
まず、目標管理制度のどの部分に問題があるのかを特定します。
私の失敗事例のように、問題が目標そのものではなく、目標の作り方、更新頻度、上司の運用能力にある可能性もあるため、ここを特定せずに制度を廃止すると、名称だけ変えて同じ問題が再発します。
従来の評価配分を何へ置き換えるか
例えば、現在の評価が次の構成だったとします。
| 評価項目 | 従来の比率 |
|---|---|
| 個人目標の達成度 | 50% |
| 行動・プロセス | 30% |
| 能力・スキル | 20% |
目標達成度50%を廃止する場合、その50%を単純に行動評価へ移すだけでは不十分です。行動評価の比率が高くなりすぎると、成果を出さなくても「一生懸命取り組んだ」と評価される制度になるからです。
代替案としては、次のような構成が考えられます。
| 評価項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 役割成果 | 等級・職務で求められる役割をどの程度果たしたか |
| 業務成果 | 担当業務の品質、納期、顧客価値、生産性 |
| 組織貢献 | チーム成果、他部署支援、改善、知識共有 |
| 行動・能力 | 期待行動、専門性、問題解決、協働 |
| 成長・育成 | スキル向上、後輩育成、次の役割への準備 |
重要なのは、先に評価比率を決めることではありません。まず「会社が社員に何を期待するのか」を等級・職種・役割ごとに定義し、その発揮度を評価項目へ落とします。
目標設定なしで成果をどう判断するか
個人目標を設定しない場合でも、成果を判断する材料は必要です。成果は、必ずしも「年初に決めた目標の達成率」で測る必要はありません。
例えば、次の事実を確認できます。
この場合、期初に数値目標を固定するのではなく、評価期間中の主要業務、案件、成果、問題解決を記録していく方法が考えられます。
ただし、目標をなくしただけで記録も残さないと、評価が上司の印象や直近の出来事に左右されます。目標管理シートを廃止するなら、業務実績やフィードバックを残す別の仕組みが必要です。
会社と個人の方向性をどうそろえるか
個人目標がなくても、会社やチームの目標は必要です。
一般的、かつ私の経験則的に社員が次の点を理解できない状態は組織として健全とはいえません。特にベンチャー企業であればあるほど、従業員規模が100名以下であればあるほど個人の主体性を掻き立てる仕組みが必要です。
したがって、目標管理制度を廃止後も次のどれかは残す必要があります。
組織が健全かどうかを分けるのは、個人目標の有無ではなく、「会社の方向性と個人への期待が共有されているか」「状況の変化に応じて優先順位を更新できるか」が重要です。
評価と給与・賞与・昇格をどうつなぐか
従来、目標達成度を賞与や昇格に反映していた場合、廃止後の処遇決定ルールを決めなければなりません。
特に、評価と賞与の関係を曖昧にすると、「何をしても賞与は同じ」という受け止め方が生まれます。
一例として、次のような役割分担が考えられます。
| 人事判断 | 主な判断材料 |
|---|---|
| 基本給 | 等級、職務、役割の大きさ |
| 昇給 | 現等級での役割発揮度、能力向上 |
| 賞与 | 会社・部門業績、個人の成果・貢献 |
| 昇格 | 上位等級の役割を担えるか |
| 配置 | 適性、経験、今後の育成方針 |
「評価結果をすべて一つの点数にして、給与・賞与・昇格へ同じように使う」必要はありません。人事判断ごとに、見る材料を分ける方法もあります。
仕事のタイプ別に何を残すか
全社員一律に個人目標を廃止するべきかも検討が必要です。
| 仕事のタイプ | 廃止後の管理方法 |
|---|---|
| 営業 | 売上、粗利、顧客獲得などのKPIは残し、目標達成率だけで人事評価を決めない |
| 製造 | 品質、安全、納期、生産性などのチーム指標と技能・改善行動を確認する |
| バックオフィス | 正確性、期限、リスク対応、制度設計、業務改善を役割基準で確認する |
| 開発・研究 | プロジェクトの節目、技術的課題の解決、学習、知識共有を確認する |
| コンサル・企画 | 案件成果、顧客価値、問題解決、提案品質、再現可能な知見を確認する |
| 管理職 | 組織成果だけでなく、人材育成、配置、組織課題の解決も確認する |
営業職の数値目標と、研究開発職の探索的な仕事を、同じ目標管理ルールで扱う必要はありません。全社共通の基本思想を定めたうえで、職種別に成果確認の方法を分ける方が現実的です。
上司と部下の対話を何に置き換えるか
目標管理制度には、良し悪しは別として、上司と部下が定期的に話す機会を強制的に作る機能があります。目標管理シートと中間面談を廃止した結果、上司と部下が評価時にしか話さなくなる可能性があります。
廃止後は、次のような運用が必要です。
評価期間の最後に、上司が半年分を思い出して評価する運用は避けるべきです。目標を固定しないからこそ、期中の期待と実績を短い間隔で確認する必要があります。
移行による公平性と社員の納得感をどう確保するか
制度を廃止する際は、社員から次の疑問が出ます。
- 今後は何を頑張れば評価されるのか
- 上司の好き嫌いで評価されないか
- 数値成果を出した人が報われなくならないか
- 期初に合意した目標はどう扱われるのか
- 賞与や昇給はどう変わるのか
- 低評価の理由をどのように説明するのか
目標達成率という表面的にわかりやすい基準をなくすと、評価者の裁量が広がります。
そのため、次の対策が必要です。
現状の目標管理制度を改善するオプションを選択する場合
目標管理制度の機能面の論点
制度目的・役割を明確にし、目標管理制度に何の機能を持たせるかを明確にします。
すべての機能を一つの目標シートに持たせる必要はありません。
例えば、業績目標は成果評価と賞与に使い、能力開発目標は育成に使うなど、目標の種類によって用途を分けることも考えられます。
経営方針・組織目標の展開機能
目標管理制度には、経営目標を日常業務へ翻訳する機能があります。
- 経営目標から部門目標へのつながりがあるか
- 部門目標からチーム・個人目標へのつながりがあるか
- 個人目標が達成されれば部門目標の達成につながるか
- 各社員が会社の重点課題を理解できるか
- 自分の仕事が組織成果にどうつながるか説明できるか
- 部門間で目標が衝突していないか
- 共同で取り組むべき課題が個人目標から漏れていないか
- 通常業務と重点課題の優先順位が明確か
経営目標を単純に分解するだけでは不十分です。
例えば、営業部門の「売上最大化」と製造部門の「原価削減」、品質部門の「不良率低下」は相互に衝突する可能性があります。
縦方向の目標展開だけでなく、部門間の横方向の整合性も必要です。
役割・責任の明確化機能
目標は、社員が評価期間中に何へ責任を持つのかを明確にするものです。
目標管理制度だけで役割の曖昧さを解決しようとすると、目標シートが業務一覧になります。
本来は、等級制度や職務・役割定義によって恒常的な期待を示し、目標管理制度では当期の重点課題を示すという分担が必要です。
目標設定機能
どのような内容を目標として設定するかを設計します。
| 目標の種類 | 内容 |
|---|---|
| 業績・成果目標 | 売上、粗利、採用数、納期など |
| プロセス目標 | 商談数、訪問数、改善活動など |
| 品質・リスク目標 | 不良率、事故、解約、法令対応など |
| 改善・プロジェクト目標 | システム導入、標準化、業務改善など |
| チーム・組織目標 | チーム業績、他部署支援、組織課題など |
| 能力開発目標 | 知識、スキル、資格、経験など |
| 育成目標 | 後輩指導、後継者育成など |
成果の測定機能
目標管理制度には、社員がどのような成果を上げたかを判断する機能があります。
定性目標についても、次の基準を設定できます。
目標水準・難易度調整機能
目標達成率を評価に使う場合、目標の難易度をそろえる必要があります。
目標水準は、次の3段階で設計できます。
| 水準 | 定義 |
|---|---|
| 最低水準 | 現等級・職務として必ず満たすべき水準 |
| 期待水準 | 通常期待される達成水準 |
| 挑戦水準 | 追加的な工夫や高い成果を必要とする水準 |
挑戦目標を通常目標と同じ達成率で評価すると、社員が挑戦を避ける可能性があります。
進捗管理・軌道修正機能
目標管理は、期末に達成度を判定するためだけの制度ではありません。
目標を途中で変更できること自体を例外扱いするのではなく、一定の条件を満たした場合に正式に変更できる機能として設計します。
成果評価機能
目標の達成状況をどのように人事評価へ反映するかを決めます。
目標を達成したかだけでなく、「どのような条件で、どの程度の価値を生んだか」を判断できる必要があります。
処遇決定機能
目標達成度を給与、賞与、昇格などのどこへ使うかを分けます。
| 人事判断 | 目標達成度の使い方 |
|---|---|
| 賞与 | 当期成果として比較的強く反映する |
| 昇給 | 継続的な役割発揮や能力向上とあわせて確認する |
| 昇格 | 上位等級を担えるかを別途判断する |
| 配置 | 成果だけでなく適性、経験、育成方針も確認する |
| 育成 | 未達理由や能力課題を次期支援へつなげる |
現等級で高い成果を上げることと、上位等級の役割を担えることは別です。目標達成だけで自動的に昇格する設計は避ける必要があります。
対話・育成機能
目標管理制度は、上司と部下が期待や成長について話す機会にもなります。
育成目標を設定する場合、それを直接処遇へ連動させるかも検討します。
資格取得や新しい業務への挑戦が未達だったことを強く減点すると、社員が安全な目標しか設定しなくなる可能性があります。
職種・等級への適合機能
全社員に同じ形式の目標を設定させる必要はありません。
| 対象 | 主に確認する内容 |
|---|---|
| 営業 | 売上、粗利、顧客維持、提案品質 |
| 製造 | 品質、安全、納期、生産性、改善 |
| バックオフィス | 正確性、期限、リスク、制度・業務改善 |
| 研究開発 | マイルストーン、知見、課題解決、技術共有 |
| 管理職 | 組織成果、戦略実行、人材育成、組織改善 |
| 専門職 | 高度課題の解決、標準化、技術伝承 |
公平性・リスク抑制機能
目標設定が、望ましくない行動を誘発しないかを確認します。
| 目標 | 起こり得る問題 | 補完する指標 |
|---|---|---|
| 売上 | 値引き、低採算受注 | 粗利、解約、回収 |
| 採用人数 | 採用品質の低下 | 定着率、試用期間通過率 |
| 生産数量 | 品質・安全の軽視 | 不良、事故、再作業 |
| 問い合わせ処理数 | 対応品質の低下 | 再問い合わせ、満足度 |
| 開発速度 | 不具合、技術負債 | 障害、手戻り、保守性 |
| コスト削減 | 必要投資の先送り | 品質、顧客影響、将来費用 |
目標管理制度の運用面の論点
目標設定、期中確認、評価の時期を業務計画と連動させます。
経営目標が決まっていない段階で個人目標を提出させると、後から修正が必要になります。基本的には、経営目標、部門目標、個人目標の順番で設定します。
誰が目標を作り、確認し、承認するかを明確にします。
| 関係者 | 主な役割 |
|---|---|
| 経営層 | 経営方針、全社目標、重点課題の決定 |
| 部門長 | 部門目標、部門内の優先順位、資源配分 |
| 直属上司 | 個人への期待提示、目標調整、進捗支援、評価 |
| 本人 | 目標案の作成、進捗報告、実績・課題の記録 |
| 人事 | 制度管理、目標品質確認、難易度・評価調整 |
| 経営会議等 | 重要目標、部門間の矛盾、最終評価の確認 |
目標設定の標準手順を決めます。推奨する流れは次のとおりです。
- 会社・部門方針を共有する
- 上司が本人への期待役割を説明する
- 本人が目標案を作成する
- 上司と本人が内容・難易度・期限を調整する
- 必要な支援、予算、権限を確認する
- チーム内で重複・漏れを確認する
- 管理職間で難易度を調整する
- 最終承認する
目標品質の確認
提出された目標が制度要件を満たしているかを確認します。
人事が全社員の目標を詳細に添削するのは、30〜100名企業でも負担が大きくなります。まず管理職が確認し、人事は管理職ごとの傾向や重要ポストの目標を重点的に確認する方法が現実的です。
難易度・ウェイトの調整
上司・部門による目標水準の違いを調整します。
- 調整会議を目標設定時に行うか
- 同じ等級・職種の目標を比較するか
- ウェイトの上限・下限を設けるか
- 高難度目標をどう識別するか
- 挑戦目標の未達をどう扱うか
- 過去実績や担当条件を確認するか
- 評価時にも難易度を再確認するか
ここで調整するのは、個々の文言ではなく、目標の水準感です。「この目標を達成した社員は、現等級として期待どおりなのか、期待以上なのか」を管理職間で確認します。
期中の進捗確認と上司支援
目標の進捗確認を、単なる報告会にしないことが重要です。
- 現在の進捗
- 予定との差
- 達成を妨げている要因
- 今後の対応
- 上司・他部署から必要な支援
- 優先順位の変更
- 目標の継続・変更・中止
- 新たに発生した重要業務
- 評価時に必要な成果記録
- 月次・四半期のどこで確認するか
- 1on1と進捗確認を分けるか
- 進捗記録をどこまで残すか
- 上司が支援内容を記録するか
- 未達の兆候に対する改善計画を作るか
- 順調な社員にもフィードバックするか
目標変更・例外処理
目標変更を認める条件と手続きを定めます。
- 経営・部門方針の変更
- 組織変更・異動
- 担当顧客やプロジェクトの変更
- 予算・人員の変更
- 市場・法令環境の大幅な変化
- プロジェクトの中止・延期
- 休職・勤務条件の変更
- 誰が変更を申請するか
- 誰が承認するか
- 変更前後の記録を残すか
- ウェイトをどう再配分するか
- 変更時点までの成果をどう扱うか
- 期末直前の変更を認めるか
- 目標外の貢献を追加評価できるか
- 中止目標を評価対象から外すか
実績・エビデンスの記録
評価時に上司の記憶だけで判断しないため、期中の事実を残します。
- 数値実績
- 成果物
- 顧客・関係者からの評価
- プロジェクトの完了状況
- 問題解決の内容
- 業務改善の効果
- チーム・他部署への貢献
- 目標変更の経緯
- 上司から提供した支援
- 本人がコントロールできなかった要因
記録を増やしすぎると運用負荷が高くなります。月報を別に作るのではなく、既存の1on1、案件管理、KPI会議などの記録を活用します。
評価・評価調整
期末評価の手順と判断基準を統一します。
- 本人が実績と根拠を整理する
- 上司が達成度・品質・影響を確認する
- 目標難易度と外部要因を確認する
- 目標外の重要な貢献を確認する
- 部門内で評価を調整する
- 必要に応じて部門間で調整する
- 最終評価を決定する
- 評価理由を本人へ説明する
- 自己評価をどのように使うか
- 一次評価者と二次評価者の役割を分けるか
- 評価コメントに何を記載させるか
- 評価調整会議を誰が進行するか
- 部門間の平均評価差を確認するか
- 上司別の甘辛傾向を分析するか
- 評価の強制分布を設けるか
- 評価変更の理由を記録するか
フィードバック・次期への接続
評価結果を通知するだけでは、目標管理の改善・育成機能は働きません。
管理職教育・運用支援
目標管理の品質は、管理職の目標設定・面談・評価能力に大きく左右されます。
制度説明だけではなく、実際の目標を使った演習が必要です。
システム・帳票・運用負荷
目標管理システムや評価シートが、制度目的に合っているか確認します。
30〜100名企業では、複雑なシステムよりも、目標数と入力項目を絞る方が改善効果が高い場合があります。
運用状況のモニタリングと改善
制度導入後も、運用状況を定期的に確認します。
運用率だけでなく、「目標が業務の優先順位や成果改善に役立ったか」まで確認します。
機能面と運用面の対応関係
| 機能面 | 対応する運用面 |
|---|---|
| 経営方針を個人へ展開する | 経営→部門→個人の順で設定する |
| 役割・責任を明確にする | 上司が期待役割を説明し、本人と合意する |
| 適切な目標を設定する | 品質チェックと承認を行う |
| 難易度を公平にする | 管理職間で目標水準を調整する |
| 進捗を管理する | 月次・四半期で確認する |
| 環境変化へ対応する | 変更基準・承認手続きを設ける |
| 成果を測定する | 数値・成果物・関係者評価を記録する |
| 公平に評価する | 評価調整会議を行う |
| 処遇へ反映する | 賞与・昇給・昇格のルールを分ける |
| 育成につなげる | フィードバックと次期課題を確認する |
| 職種差へ対応する | 職種別の目標例・評価基準を用意する |
| 逆機能を防ぐ | 品質・リスク指標を組み合わせる |
優先順位をつける場合
すべてを一度に改善できない場合は、次の順番を推奨します。
- 制度目的を明確にする
- 経営・部門・個人目標を接続する
- 目標の種類と達成基準を見直す
- 難易度と評価方法をそろえる
- 処遇との接続を整理する
- 職種・等級別に適用方法を分ける
- 目標設定・承認プロセスを統一する
- 目標設定時の難易度調整を行う
- 期中確認と目標変更を制度化する
- 評価根拠を記録する
- 評価調整とフィードバックを強化する
- 管理職研修を実施する
- 運用負荷と効果を測定する
最終的には、次の問いで機能面と運用面を切り分けます。
目標管理制度の仕組みが正しく設計されていないのか。それとも、仕組みは妥当だが、管理職や社員が想定どおりに運用できていないのか。
前者であれば制度改定、後者であればプロセス整備、管理職研修、モニタリングの強化が中心になります。両者を混同すると、運用上の問題を解決するために制度を複雑化したり、制度上の欠陥を現場の努力で補わせたりすることになりますので注意が必要です。
目標管理制度を抜本的に変えるオプションを選択する場合
目標管理制度を抜本的に変えるには、基本論点は現行の目標管理制度の改善と同様です。しかし、目標管理制度方法が異なるため、なぜ目標管理制度を抜本的に変えるのか、何を目指して変えるのかを基準に一般的な目標管理制度の種類と特徴を理解したうえで最適な制度を選択しましょう。
移行のロードマップ——何を残し、何を捨て、どう説明するか
代替案を決めたら、次はどう移行を進めるかです。私がクライアントに提案している手順は次の四段階です。
一段階目は、現行制度の棚卸しです。目標設定シートのどの項目が実際に使われていて、どの項目が誰にも読まれず放置されているかを確認します。形骸化している項目は、移行時に思い切って削って構いません。
二段階目は、評価制度側への影響の切り分けです。目標達成度を賞与や昇給の算定式に組み込んでいる場合、その連動をどこまで残すかを先に決めておく必要があります。評価制度や賃金制度に関わる変更は、就業規則や賃金規程の見直しを伴うことがあるため、この部分は社会保険労務士など専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
三段階目は、社員への説明順序です。いきなり全社に発表せず、まず管理職に変更の理由と新しい運用を共有し、部下への説明を任せる形が現場の混乱を抑えます。「なぜ変えるのか」を管理職自身が腹落ちしていないまま全体発表すると、現場からの質問に答えられず不信感につながります。
四段階目は、1〜2四半期の試験運用期間を設けることです。いきなり全社一律の恒久ルールとして切り替えず、試験運用としてスタートし、次の章で触れる混乱を吸収しながら微調整していきます。
移行後1〜2サイクルで起きがちな混乱とその対処
目標管理制度を軽量化・縮小すると、移行後の1〜2サイクルはほぼ必ず何らかの混乱が起きます。あらかじめ想定しておくと、経営者や管理職の動揺を減らせます。
一つ目は、目標が曖昧になったことへの社員の不安です。「結局、何を基準に評価されるのか分からなくなった」という声が出やすくなります。対処としては、評価の判断基準となる行動指標を先に言語化し、目標の緩和と同時に提示しておくことです。何かを外すときは、代わりに何を見るのかをセットで示す必要があります。
二つ目は、管理職側の戸惑いです。これまで目標達成度という分かりやすい物差しで部下を管理してきた管理職ほど、「目標を握らなくていいのか」という不安を持ちます。対処としては、1on1で何を話せばいいかの簡単なガイドラインを渡し、目標管理の代わりに何を対話の軸にするのかを具体的に示すことです。
三つ目は、経営陣側の不安です。「数字で追えなくなった」という感覚から、元の重い制度に戻したくなる場面が出てきます。ここで大事なのは、事業のKPIと個人目標をあえて切り離した理由を、移行の初期段階に立ち返って再共有することです。事業の数字は事業計画側で追い、個人目標は行動の方向づけに徹するという役割分担を、経営陣にも改めて説明します。
これらの混乱は、多くの場合2サイクル目に入ると落ち着いてきます。1サイクル目は変更そのものへの戸惑いが大きく、2サイクル目で新しい運用に慣れてくるという流れがよく見られます。人事制度は目標管理制度に限らず、何をどの順番・どのタイミングで入れるかの設計が成否を左右します(人事制度をいつ、何人から入れるべきかを整理した記事も参考にしてください)。制度の変更は一度で完成させるものではなく、様子を見ながら育てていくものだと捉えておくと、この移行期の混乱にも落ち着いて対応できます。
まとめ | 次にとるべきアクション
目標管理制度が時代遅れかどうかは、制度そのものの是非ではなく、自社の規模と運用体制に対して制度が要求するコストが見合っているかで判断すべきです。まずは本記事のチェックリストで、7項目のうちいくつ当てはまるかを確認してください。3個以上なら運用の見直し、5個以上なら制度の縮小や廃止を含めた検討に進むタイミングです。
目標管理制度も、広い意味では評価制度全体の設計の一部です。目標設定だけを切り離さず、評価や処遇との連動も含めて全体を見直すと、より根本的な解決につながります。
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