人事制度はいつから、何人から必要?制度別にわかりやすく解説

組織の壁

人事制度は何人から必要か、制度ごとに整理しました。就業規則やストレスチェックの法定義務ラインと、評価・等級・賃金制度の経営判断ラインを分けて解説します。

人事制度は「ひとつ」ではない——いつからを考える前に整理すべきこと

「人事制度はいつから、何人から必要ですか」という質問を、私は制度設計の相談の場でほぼ毎回受けます。そのたびに最初にお伝えしているのは、この質問には実は前提の誤りがあるということです。人事制度とひとくくりに呼んでいるものの中には、就業規則、評価制度、等級制度、賃金テーブル、目標管理制度など、性質のまったく違う仕組みが混ざっています。これらを一枚岩として「何人から」を論じようとすると、答えは必ず「会社によります」というあいまいなものになってしまいます。

実際、この疑問で検索すると出てくる記事の多くも、人事制度や評価制度をひとまとめにして「10名くらいから」「30〜50名が目安」といった単一の数字を提示しています。ただ、その数字がなぜその位置にあるのかという根拠まで踏み込んでいる記事はほとんど見当たりません。

この記事では、制度ごとに「いつから」「何人から」を切り分けます。まず、法律で決まっている義務のライン(就業規則・ストレスチェック)を確認し、次に、企業が任意で判断する経営判断のライン(評価・等級・賃金・目標管理)を整理します。最後に、実際に何人になったらどの制度から着手すべきかを、意思決定のためのチェックリストとしてまとめます。なお、法令に関わる部分は一次情報に基づいて整理していますが、自社の状況にそのまま当てはめる前には、必ず社会保険労務士など専門家に確認することをおすすめします。

法律で決まっている「いつから」——就業規則とストレスチェックの義務ライン

人事制度と呼ばれるものの中で、唯一「何人から」が法律で明確に決まっているのが就業規則です。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出る義務を負います。ここでいう10人には正社員だけでなくパートやアルバイトも含まれ、常時とは繁忙期だけ一時的に10人を超えるような状態ではなく、年間を通じてほぼ10人以上在籍している状態を指すとされています。(出典:栃木労働局「就業規則の作成・変更・届出の義務」)。この義務を怠った場合、労働基準法第120条により罰則の対象になり得ます。

もうひとつ、人数によって法的な義務が発生するのがストレスチェックです。労働安全衛生法第66条の10により、常時50人以上の労働者を使用する事業場には、ストレスチェックの年1回実施、産業医の選任、実施状況の労働基準監督署への報告が義務付けられています。(出典:東京労働局)。さらに、2025年に成立した法改正により、2028年4月からは常時50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化される予定です。(出典:中央労働災害防止協会Q&A)。50名に満たない規模の会社でも、この改正を見据えて準備を始めておく価値はあります。

ここで押さえておきたいのは、法律で義務化されているのはあくまで就業規則とストレスチェックの2つであって、評価制度や等級制度、賃金制度そのものに法的な導入義務はないという点です。この2種類を混同して語っている記事や説明を見かけますが、法定義務のラインと、次の章で扱う経営判断のラインは、性質がまったく異なります。なお本記事の数字は一次情報を基に整理していますが、事業場の該当性や適用範囲の最終判断は、社労士など専門家への確認を前提にしてください。

経営判断としての「いつから」——評価・等級・賃金・目標管理に法律の基準がない理由

評価制度、等級制度、賃金テーブル、目標管理制度には、就業規則のような「何人から作らなければならない」という法的な基準が存在しません。これは制度が重要でないからではなく、企業ごとに事業内容や組織構造が異なり、一律の人数基準になじまないためです。だからこそ、これらの制度は経営判断として「いつ着手するか」を自社で決める必要があります。

私が現場で見てきた限り、これらの制度が必要になるタイミングには、法律とは別の共通した目印があります。それは、経営者や創業メンバーが社員一人ひとりの働きぶりを直接把握できなくなる規模です。社員が20名程度までの会社では、誰がどんな仕事をしていて、どれくらい頑張っているかを、経営者が肌感覚で把握できています。評価制度がなくても、経営者の目という見えないインフラが処遇の納得感を支えているためです。

この見えないインフラは、社員が30名前後に近づくと揺らぎ始めます。ただし、ここで先に手をつけるべきは評価制度そのものではありません。まず必要なのは、誰にどこまでの権限と役割を任せるかという構造(Structure)を固めることです。管理職を誰にするか決め、役割を言語化する作業を先に済ませておかないと、後で評価制度を入れても運用する人がいない状態になります。この時期に何が起きるかは30人の壁で詳しく取り上げていますので、心当たりのある方はあわせてご覧ください。

評価の基準がないことが「不公平感」としてはっきり表面化してくるのは、経営者の目も管理職の目も届かない社員が増える100名前後です。部署ごとに評価の甘辛が割れ、頑張っても頑張らなくても処遇が変わらないという不満が噴き出し始めます。この属人管理の限界が、評価制度を本格的に導入する目安です。

等級制度は、評価制度とほぼ同じタイミングか、その直後に必要になることが多い制度です。評価するためには「何を基準に評価するか」を段階的に定義する土台が要るためで、評価制度だけを先に作って等級の枠組みを後回しにすると、評価結果を処遇に反映する段階でつまずくケースをよく見ます。賃金テーブルはさらにその後、評価と等級の運用が一定回りはじめてから設計するのが順序として安全です。評価も等級も定まらないうちに賃金テーブルだけを作ってしまうと、実態と数字が合わず、作り直しになる会社が少なくありません。

目標管理制度は、これらの中でもっとも後回しにしてよい制度です。目標管理は本来、マネージャーが部下の状況を把握したうえで運用する仕組みであり、管理職の育成が追いついていない段階で導入すると、目標設定が形骸化した年中行事になりがちです。評価制度が最小構成で回り始める100名前後以降、管理職が権限をもって部下と向き合える体制が整ってから着手するのが現実的です。この時期に組織で何が起きるかは、50人の壁で扱っている権限委譲の課題や、100人の壁で扱っている評価の不公平感の課題と重なります。

制度別「何人から」早見マトリクス

ここまでの整理を、制度ごとの早見表にまとめます。位置づけが法定義務か経営判断かによって、対応の緊急度がまったく異なる点に注目してください。

制度位置づけ目安人数根拠・理由
就業規則法定義務常時10名以上労働基準法第89条。届出を怠ると罰則の対象になり得る
評価制度経営判断100名前後から部署間で評価の甘辛が割れ、不公平感が表面化し始める。30〜50名ではまず構造(Structure)を先に固める
等級制度経営判断100名前後評価の基準となる段階定義が必要になる。評価制度と同時期が目安
賃金テーブル経営判断100名以降評価・等級の運用が回り始めてから整合させる方が安全
ストレスチェック法定義務常時50名以上(2028年4月からは50名未満にも義務拡大予定)労働安全衛生法第66条の10
目標管理制度経営判断100名以降評価制度が定着し、管理職が部下と向き合える体制が前提になる

このマトリクスで伝えたいのは、法定義務のラインは会社の意思とは無関係に到達した時点で対応が必要になるのに対し、経営判断のラインはあくまで目安であり、業種や事業内容によって前後するということです。特に専任の人事担当者がいない会社では、評価制度や等級制度は目安より遅れて着手しても致命的な問題にはなりにくい一方、就業規則の届出漏れは労基署対応という別の種類のリスクを伴います。優先順位を考えるときは、この違いを踏まえておく必要があります。

何人になったら、どの順番で着手すべきか——意思決定のチェックリスト

実際に自社が今どの段階にいて、何から手をつけるべきかを判断するためのチェックリストです。

常時10名に近づいている、またはすでに超えている場合は、就業規則の作成・届出をまず確認してください。ここは経営判断の余地がない法定義務であり、後回しにするほど整備の負担が増えていきます。すでに事業場人数が10名を超えているのに就業規則が未整備という会社は、規模の小さいうちに見つけたほうが対応がずっと楽です。

社員が30名前後に近づき、経営者の目が届かない社員が出てきたと感じたら、まず手をつけるべきは評価制度ではなく、管理職を誰にするか決め、役割を言語化する構造(Structure)づくりです。この段階で評価制度を急いで導入すると、運用する管理職がいないまま制度だけが先行し、形骸化する失敗をよく見ます。

社員が50名前後に達したら、賃金テーブルの検討を始める前に、まず管理職への権限委譲とストレスチェックの実施義務が発生していないかを必ず確認してください。ここは法定義務と経営判断のラインがほぼ同時に重なる分岐点であり、対応の抜け漏れが起きやすい規模でもあります。加えて、2028年4月からのストレスチェック義務拡大を踏まえると、50名にまだ届いていない会社も準備を早めに始めておいて損はありません。

社員が100名前後に達したら、いよいよ評価制度と等級制度を最小構成で導入する段階です。作り方の具体的な手順は評価制度の作り方で解説していますので、着手時期の見通しが立ったらあわせて参照してください。目標管理制度のような、マネージャー層の運用力を前提とする仕組みは、評価制度が現場で回り始めてから検討するのが現実的です。この時期の組織全体の課題については、組織拡大の全体像を整理した記事もあわせて参考にしてください。

私が支援してきた複数の会社に共通していたのは、法定義務と経営判断の順番を逆にしてしまうと、あとから整備し直す手間がかえって増えるということでした。ある30名台の会社では、評価制度の導入を優先するあまり、常時10名を超えてからしばらく就業規則の届出が後回しになっており、労基署の調査で指摘を受けてから慌てて整備するという事態になりました。これは特定の1社の話ではなく、支援先で繰り返し見てきたパターンを組み合わせたものですが、法定義務のラインを先に押さえておくことの重要性がよくわかる例です。

まとめ——「何人からか」より「どの順番か」を決める

人事制度はいつから、何人からという問いに、単一の数字で答えることはできません。就業規則(常時10名)とストレスチェック(常時50名、2028年4月からは50名未満にも拡大予定)は法律で決まった義務のラインであり、評価制度・等級制度・賃金テーブル・目標管理制度は、経営判断として自社のタイミングで着手するものです。この2つを分けて考えることが、遠回りに見えて結局いちばん確実な進め方になります。

自社が今どの段階にいるのか、どの制度から着手すべきか判断に迷う場合は、法令に関わる部分は社労士などの専門家に確認しつつ、制度設計そのものは一人で抱え込まず相談することをおすすめします。制度の着手順序や進め方について相談したい方は、こちらの無料相談フォームからお気軽にご連絡ください。

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