AI活用度を人事評価に反映する方法|失敗しない導入の順番

System | 仕組み

「AIを使っているかどうか」で評価したい、という相談が増えている理由

「うちも生成AIを使っている社員とそうでない社員で、評価に差をつけたい」。ここ数ヶ月、こうした相談を経営者や人事責任者から受ける機会が急に増えました。AI活用度の人事評価への反映とは、生成AIをどれだけ効果的に業務へ取り入れているかを、評価項目の一つとして組み込むことを指します。背景にあるのは単純な話で、AIを積極的に使いこなす社員と、これまでのやり方を変えない社員の間で、実際に生産性の差が目に見えて開き始めているという実感です。

ただ、この相談を受けたときに私が最初にお伝えするのは「評価に入れること自体は悪くないが、順番を間違えると社内が荒れます」という一言です。海外ではすでに、AI活用度を評価に組み込んで成功した会社と、発表しただけで撤回に追い込まれた会社の両方の実例が出そろっています。この記事では、その明暗を分けた要因を整理したうえで、30〜100名規模の会社が現実的に取れる進め方を解説します。

なぜ今、AI活用度が評価の論点になっているのか

象徴的なのが、ECプラットフォームを運営するShopifyと、語学学習アプリを提供するDuolingoという2社の対照的な結末です。

Shopifyは2025年初頭、CEOが全社員に向けて「AI活用を前提業務にする」というメモを出し、AI活用度をパフォーマンスレビューやピア評価に正式に組み込みました。新しく人を採用する前には、その業務がAIでは代替できないことを証明するよう求めるなど、徹底した姿勢を取っています。この方針は大きな話題になりましたが、少なくとも撤回はされていません。

一方でDuolingoは2025年に「AI活用を採用・人事評価の判断材料にする」と発表しましたが、従業員からの強い反発を受け、2026年4月にCEO自ら「強制はしない」と評価反映の撤回を表明しました(Fortune)。同じように「AI活用を評価に入れる」と宣言した2社で、なぜ明暗が分かれたのでしょうか。

両社を比較した報道では、Shopifyが全社的な業務ツール整備とセットでAI活用を位置づけていたのに対し、Duolingoは「AIで人を減らす」という文脈とともに語られ、従業員の雇用不安をあおる形になった点が指摘されています(Washington Post)。つまり分かれ道は制度の巧拙以前に、「何のためにAI活用を評価するのか」という目的説明の有無にあったということです。

念のため補足すると、撤回されていないからといってShopifyの社内に不満がないと言い切れるわけではありませんし、両社とも米国のテック企業であり、日本の30〜100名規模の会社とは社員の顔ぶれも前提も違います。この2社から持ち帰るべきは制度の細部ではなく、「目的の説明と導入の順番が信頼を左右する」という一点だけです。

日本国内でもAIを人事の実務に取り入れる動きは広がっており、採用・評価領域でのAI活用事例は増加傾向にあります(quants.co.jp)。ただし国内で紹介されている事例の多くは、面接支援や書類選考の効率化といった採用領域が中心で、評価そのものにAI活用度を組み込んだ実例はまだ限られています。だからこそ今、海外の先行事例から学べることが多い段階だと私は捉えています。

海外の2社に共通しているのは、AI活用度という新しい物差しを会社が持ち込んだ瞬間、社員側は「何のために測られるのか」を敏感に読み取るという点です。評価への反映という一歩踏み込んだ議論は、これから多くの会社が向き合うテーマになっていくはずです。

実際、人事領域のグローバル調査会社Betterworksが2026年にまとめたレポートでは、HRリーダーの9割が「優れた成果とは何かという定義は、すでにAIによって変わった」と回答しています(Betterworks)。評価基準を見直さないまま、これまでどおりの物差しで社員を測り続けている会社は、実は間違った基準で評価をしてしまっている可能性がある、という指摘です。日本の30〜100名規模の会社でも、遅かれ早かれ同じ問いに向き合うことになるはずです。

なお、評価への位置づけには段階があります。国内外の先行企業を観察すると、AI活用を「できなければ評価しない」という最低要件として扱う会社(Shopifyなど)、「全員がやっている前提で成果だけを見る」という前提条件として扱う会社、そして「できていれば評価が上がる」という加点要素として扱う会社に分かれています(株式会社Kamon・佐藤氏の整理)。30〜100名規模の会社がいきなり最低要件から入るのは反発のリスクが大きいため、この記事で後述する段階導入は、加点要素からスタートして段階的に位置づけを引き上げていく道筋にあたります。

評価に組み込む前に整理すべき5つの論点

相談を受けたとき、私はまず制度設計に入る前に次の5点を経営者と一緒に確認します。ここを飛ばして評価シートだけ作ってしまうと、Duolingoと同じ轍を踏みかねません。

論点1: そもそも評価に入れるべきか——「ツール整備が先」という反対論

最初に確認すべきは、評価に入れること自体の必要性です。あえて反対の立場から言えば、AI活用は評価で釣らなくても、使いやすいツールと業務に即した研修さえ用意すれば自然に広がる、という考え方には十分な説得力があります。実際、社員が使わない理由の多くは「意欲がない」ではなく「何に使えばいいか分からない」「会社としてどこまで使っていいか不明確」という環境側の問題です。環境を整えないまま評価だけを先行させると、社員は「支援はしないが査定はする」という会社の姿勢に不公平感を抱きます。

それでも評価に入れる意味があるのは、ツール整備と研修を済ませたうえで、活用の定着に個人差が残っている段階の会社です。逆に、まだ全社共通のツールも使い方の指針もない段階であれば、評価より先にやるべきことがあります。自社がどちらの段階かを最初に見極めてください。

論点2: 「使った回数」か「使いこなした質」か

最も陥りやすいのが、AIツールの利用ログや使用回数だけを評価指標にしてしまうケースです。この設計だと、社員は「実際に役立つかどうかは二の次で、とにかく回数を稼ぐ」という行動に流れます。会議のたびに不要な議事録要約を作らせるだけの利用が増えるといった、本末転倒な事態も起こりえます。使用回数、成果への貢献、社内でのナレッジ共有、学習の継続という複数の観点を組み合わせて初めて、実態に近い評価になります。

論点3: 「評価に入れる」という宣言そのものが持つ強制感

Duolingoの失敗が示しているのは、施策の中身よりも「発表の仕方」が信頼を左右するという事実です。会社がAI活用を評価に入れる目的をきちんと説明せず、いきなり評価項目だけを追加すると、社員は「監視されている」「AIに置き換えられる前触れだ」と受け取ります。評価に反映する前に、なぜAIを使ってほしいのかという経営の意図を先に共有する必要があります。

論点4: 職種による活用機会の差をどう扱うか

30〜100名規模の会社では、営業・バックオフィス・現場作業など職種の幅が限られている一方で、職種ごとにAIを使える業務量には大きな差があります。全職種に同じ指標を当てはめると、業務の性質上AIを使いにくい職種の社員が一方的に不利になります。たとえば資料作成が業務の中心の管理部門と、対面での接客が中心の店舗スタッフとでは、AIを差し込める場面の数がそもそも違います。まずは資料作成・提案書作成など、AIを使いやすい業務が多い職種を対象に試験的に導入し、成果を見ながら他職種へ広げるほうが現実的です。

論点5: 何を評価するのか——操作スキルか、判断力か

AI活用度が高い社員が優秀とは限りません。本来評価すべきは、AIが出した提案をそのまま受け入れず、内容を吟味し、必要な修正を加えて成果につなげられているかどうかです。AIツールの操作に慣れているかどうかだけを見てしまうと、本来の職務成果とはズレた評価になってしまいます。営業資料の作成が早くなっても、内容の精度が落ちていては本末転倒です。速さと質の両方を見る視点を、評価項目のどこかに必ず残しておく必要があります。

段階導入の実務プロセス

論点を整理したうえで、実際に評価制度へ落とし込む手順は次のとおりです。

  1. 目的を言語化して先に共有する: 「業務効率化のため」「属人化していた作業をチームで扱えるようにするため」など、評価に入れる理由を人員削減と切り離して説明します。
  2. 初年度は参考評価にとどめる: 賞与や昇給に直結させず、フィードバック面談の材料として扱う期間を設けます。いきなり処遇に反映すると、Duolingo型の反発を招くリスクが高くなります。ただし参考評価には「どうせ処遇に関係ない」という形骸化と、「参考と言いながら実は昇進に効いているのでは」という不信の、両方の副作用があります。参考評価である期間と、本反映を始める予定時期をセットで最初から明示することが、この副作用への一番の予防策です。
  3. 測定は自己申告と上長評価のハイブリッドにする: 利用ログを自動収集する専用ツールへの投資が難しい規模の会社では、自己申告と上長の定性評価を組み合わせる方式が現実的です。
  4. 翌年度以降、成果と紐づけて正式反映する: 参考評価の期間で見えた課題(職種間の不公平、評価項目の分かりにくさ等)を修正したうえで、評価制度全体に正式に組み込みます。

この4段階を、四半期に一度のペースで見直す運用にしておくと、AIツール自体の進化にも制度を追随させやすくなります。ツールの機能は数ヶ月単位で変わっていくため、一度作った評価項目を固定的に運用し続けることのほうが、実はリスクになります。逆に、この段階を踏まずにいきなり本反映すると、評価制度そのものへの信頼が揺らぎます。評価制度の作り方で解説している「何を作るかより、いつ・どの順で作るか」という原則は、AI活用度の評価にもそのまま当てはまります。

評価シートに落とし込む際の指標例

論点を踏まえたうえで、実際に評価シートへ書き込む項目は、次のような組み合わせが現実的です。

指標見る内容注意点
活用の広がり自分の業務のどの工程でAIを使っているか(1つの作業だけか、複数の工程か)回数ではなく工程の幅で見る
成果への貢献AI活用によって、対応件数や資料作成の質・スピードにどのような変化があったか因果の厳密な証明は求めすぎない(後述)
ナレッジ共有効果的な使い方を、チーム内でどの程度共有できているか共有の場(朝会・チャット等)を会社側が先に用意する
学習の継続新しい使い方や機能を、自発的に試しているか試して失敗した報告も加点対象にする

これらを5段階程度の簡易なルーブリックにし、各段階に「こういう行動が見られたら3」といった具体的な行動例を添えておくと、評価者ごとの解釈のばらつきを抑えられます。数値目標だけを置くと「回数を稼ぐための形だけの利用」が横行しやすいため、行動の中身が伝わる書き方を意識してください。

よくある質問

AI活用度は人事評価に入れるべきですか

会社の段階によります。全社共通のAIツールと利用の指針がすでにあり、活用の定着に個人差が残っている会社であれば、評価に入れる意味があります。ツールも指針もまだない段階なら、評価より先に環境整備を進めてください。

AI活用度をいきなり賞与や昇給に反映してもよいですか

おすすめしません。初年度は処遇に直結させない参考評価にとどめ、フィードバック面談の材料として運用するのが安全です。その際は、参考評価である期間と本反映を始める予定時期を、最初に社員へ明示してください。

AIを使わない社員の評価は下げるべきですか

下げることを目的にしない設計をおすすめします。業務の性質上AIを使いにくい職種もあるため、まずは使える業務が多い職種を対象に加点要素として始め、公平性を確認しながら対象を広げるのが現実的です。

AI活用度はどうやって測ればよいですか

使用回数だけで測るのは避けてください。活用の広がり・成果への貢献・ナレッジ共有・学習の継続という複数の観点を組み合わせ、自己申告と上長の定性評価を併用する方式が、専用ツールを持たない規模の会社では現実的です。

評価項目に追加する際に法的な注意点はありますか

評価基準の変更が労働条件の不利益変更にあたるかどうかは、個別の事情によって判断が分かれます。制度を動かす前に、就業規則や人事考課規程との整合を社労士など労務の専門家に確認することをおすすめします。

この記事では答えを出せない4つの問い

ここまで、一般論として答えられる範囲の設計手順を解説してきました。一方で、正直にお伝えすると、次の4つは記事という形では答えが出せません。いずれも会社ごとの事情によって正解が変わるからです。

第1に、会社が許可していないAIツールの利用をどこまで許容するかという問いです。評価でAI活用を促すほど、社員が個人契約のツールに業務情報を入力する行動は増えやすくなります。利用ガイドラインの整備を評価より先に行うべきかどうかは、業種と扱う情報の機微度によって答えが変わります。

第2に、評価者である管理職自身がAIを使えない場合、誰がどう評価するのかという問いです。論点5で「AIの提案を吟味する判断力を評価すべき」と述べましたが、その判断力を見極める側にAIの実務経験がなければ評価は成立しません。評価者研修で補うのか、評価の仕組み自体を変えるのかは、管理職の顔ぶれ次第です。

第3に、AIによる成果向上をどう測り、処遇へどこまで還元するかという問いです。対応件数や資料の質の変化がAIによるものか、本人の習熟や外部環境によるものかを厳密に切り分けることは、実務上ほぼできません。どこかで割り切りが必要になりますが、その割り切りの置き所は経営判断そのものです。

第4に、評価項目の変更が就業規則や人事考課規程とどう整合するかという問いです。評価基準の変更が労働条件の不利益変更にあたるかどうかは個別の事情によるため、この記事で断定することはできません。制度を動かす前に、社労士など労務の専門家への確認をおすすめします。

これらの問いは、御社の業種・管理職構成・既存の評価制度を聞いて初めて、答えの候補を絞り込めます。30分の無料相談では、この4つの問いを御社の状況に当てはめるとどうなるかを、評価項目の叩き台づくりと合わせて一緒に整理します。

まとめ:評価に入れる前に、目的と順番を決める

AI活用度を人事評価に反映すること自体は、決して間違った発想ではありません。ただし、いきなり評価シートに項目を足すだけでは、Duolingoのように現場の反発で撤回に追い込まれるリスクが高くなります。制度の完成度そのものよりも、導入の順番と伝え方のほうが、成否を左右する比重は大きいというのが実感です。

大切なのは、そもそも評価で促すべき段階かを見極めたうえで、目的を先に言語化し、初年度は参考評価にとどめ、職種間の公平性や測定方法を調整しながら段階的に本反映していくという順番です。評価制度を自社で作る際の判断基準と同じように、AI活用度の評価もまず自社の目的に照らして必要な範囲から設計するのが、遠回りに見えて一番の近道になります。

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