管理職に「エース」を選ぶと失敗する理由|実績に頼らない人選の3基準

Staffing | 人材

エース昇格はなぜ失敗するのか

「別の競技」に、前の競技の成績で選手を選んでいる

誤解のないように先に言うと、エースが無能になるわけではありません。問題は、プレイヤーとマネージャーでは求められる能力がまったく別の競技であるのに、選考基準が前の競技の成績になっていることです。

両者の成果の方程式を比べると、違いは明確です。

  • プレイヤーの成果 = 自分が動いた量 × 質
  • マネージャーの成果 = 人を通じて出した量 × 質

営業成績1位を取る力と、部下の強みを見抜き、任せ、育てる力。この2つはほとんど相関しません。むしろ「自分でやれば確実に成果が出る」という成功体験が強い人ほど、人に任せることに苦痛を感じる傾向すらあります。

100m走のチャンピオンを、タイムが速いという理由で監督にする——エース昇格とは、構造的にはこれと同じことをしています。

失敗のコストは「三重損失」になる

エース昇格の失敗が深刻なのは、失うものが一つではないからです。典型的な経過はこうです。

  1. エースがマネジメント業務に時間を取られ、本人の売上が落ちる
  2. マネジメントは機能せず、放置された部下が辞める
  3. 「プレイヤーとしては優秀だったのに」と本人が自信を失い、エース自身も辞める

会社は、最大の戦力・管理職ポスト・その部下、の3つを同時に失います。私はこれを「エース昇格の三重損失」と呼んでいますが、30〜50名規模の会社にとってこの損失は、事業の成長が1年止まるレベルのインパクトがあります。

それでもエース昇格が繰り返される理由

これほど失敗例が多いのに、なぜ各社は同じ判断をするのか。理由は2つあります。

第一に、他に基準がないからです。マネジメント適性は目に見えず、実績は見える。見えるものに頼るのは自然です。

第二に、報酬の階段が1本しかないからです。「報いる手段が昇格しかない」会社では、エースを処遇するためにマネジメントを任せるしかなくなります。これは人選の問題ではなく、等級・報酬設計の問題です(専門職としてのキャリアコースを作ることで解消できます)。

実績に頼らない人選:3つの基準

では何を見て選べばよいのか。実務で使っている基準は次の3つです。いずれも、面談と過去の行動事実から見極められます。

基準1:人の変化に気づけるか

マネジメントの起点は観察です。「最近、後輩の様子が変だと気づいて声をかけた」「チームの誰かが詰まっているとき、頼まれる前に動いた」——そうした行動の履歴がある人は、役職がなくてもすでにマネジメントを始めています。

面談では「最近、周囲のメンバーで調子を崩していた人はいますか?それにいつ気づきましたか?」と聞いてみてください。具体的なエピソードが即座に出てくるかどうかで、観察の習慣の有無がわかります。

基準2:自分の成功パターンを言語化できるか

人に教えるには、自分のやり方を分解して説明できる必要があります。「なぜあなたは成果が出ているのか?」と聞いたとき、「気合です」「お客様のことを考えているからです」としか答えられない人は、再現性を人に渡せません。

逆に、「初回訪問では受注を狙わず、相手の決裁構造を聞き出すことに絞っている」のように工程で語れる人は、部下を育てられる素地があります。

基準3:耳の痛いことを伝えられるか

マネージャーの仕事には、期待に届いていない事実を本人に伝える場面が必ず含まれます。「いい人」で全員に好かれているけれど、誰にも指摘をしたことがない人は、ここでつまずきます。

過去に、同僚や先輩に対してでも「言いにくいことを、関係を壊さずに伝えた」経験があるか。これは本人へのヒアリングと周囲の評判の両方から確認できます。

任命して終わりではない:昇格後の設計が半分

3基準で選んでも、それで成功率が5割を超える程度だと考えてください。残りの半分は昇格後の設計です。

最低限やるべきは、①マネージャーの役割定義を文書で渡す(何をすれば「成果」なのかを明示する)、②プレイヤー業務との時間配分を会社が決める、③最初の半年は社長が週1で壁打ち相手になる、の3つです。

特に②を曖昧にすると、新任マネージャーは確実に「自分でやった方が早い」というプレイングマネージャーの沼にハマります。この問題の構造と処方箋は、次回の記事で詳しく扱います。

まとめ:人選の失敗は、基準を持てば避けられる

  • プレイヤーとマネージャーは別の競技。前の競技の成績で選ばない
  • エース昇格の失敗は「戦力・ポスト・部下」の三重損失になる
  • 見るべきは実績ではなく、観察力・言語化力・指摘力の3つ
  • 任命後の役割定義と時間配分の設計までが「管理職づくり」

初めての管理職づくりは、会社の組織文化の原型を決める意思決定です。ここで作った「管理職像」が、その後に続く全マネージャーの手本になるからです。だからこそ、定石ではなく基準で選んでください。


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