管理職登用基準の作り方|5ステップで属人化を防ぐ

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管理職の登用基準を明文化していない会社は多いです。「実績があるから」「本人の希望もあるし、ちょうどポストも空いているから」といった、その場その場の判断で管理職を決めている会社を、私はコンサルの現場で数多く見てきました。

結論から言うと、登用基準は「作れば終わり」の一覧表ではありません。自社にとっての管理職の成果を定義し、現場の実例から評価項目を抽出し、誰がどう評価するかまで合意形成して初めて機能する「制度」です。この記事では、30〜100名規模の成長企業が自社で作れる「基準の作り方」を5つのステップで解説し、多くの会社が見落とす「誰が評価するか」の合意形成プロセスまで踏み込みます。

管理職の登用基準がないと何が起きるか

基準が曖昧なまま登用を続けると、会社の規模を問わず似たパターンの失敗が起きます。以下は、私がこれまで関わってきた複数の30〜100名規模企業の事例を組み合わせ、特定の企業が識別されないよう仮名・合成した典型例です。

ケース1: 業績評価だけで昇格させ、部下が3人辞めた

ある成長企業(仮にA社とします)では、営業成績トップの社員を課長に昇格させました。本人の実績は疑いようがなく、社内の誰もが「妥当な人事」だと感じていました。しかし半年後、彼のチームから3人が退職しました。

理由を辞める本人たちに聞くと、共通していたのは「詰め方がきつい」「自分のやり方を押しつけられる」という声でした。本人は「自分が結果を出してきたやり方」を部下に強要していただけで、悪意はありません。しかし、A社には「管理職に何を期待するのか」を定義した基準がなく、選考の材料が実質「業績」の一点しかありませんでした。実績と、部下の状態を観察し対話する力は別の能力です。この切り分けがないまま登用が進むと、同じ失敗が繰り返されます。

ケース2: 経営者の「かわいがり」人事で、他の管理職の信頼を失った

別の会社(仮にB社とします)では、社長が「気に入っている」社員をマネージャーに抜擢しました。本人の実力を疑う声もありましたが、社内では誰も表立って異論を言えませんでした。結果、既存の管理職たちが「実力より社長との距離で決まるのか」という不信感を抱き、他の管理職のモチベーションが目に見えて下がりました。

この事例の問題は、人選そのものよりも「何を基準に決めたのかが誰にも説明できない」ことにありました。基準がない状態での登用は、それが的確であっても「なぜその人なのか」を説明できないため、周囲の納得を得られません。

これら2つの事例に共通するのは、基準がないこと自体が組織にコストを生んでいるという点です。基準がないと、良い人を選んでも説明責任を果たせず、悪い人を選べば当然失敗します。どちらに転んでも会社は損をする構造になっています。

なぜ「基準の一覧」を真似るだけではうまくいかないのか

「管理職に必要な資質」を検索すると、判断力・コミュニケーション力・目標達成力といった項目の一覧はすぐに見つかります。しかし、こうした一覧をそのまま自社の基準として採用しても、多くの場合うまく機能しません。

理由は単純で、一覧は「一般論としての管理職像」であって、「自社の管理職に何を求めるか」ではないからです。例えば同じ「30〜100名規模の会社」でも、現場に権限を大きく委譲したい会社と、まだ社長が細部まで意思決定に関わりたい会社とでは、管理職に求める役割がまったく異なります。前者では「部下に任せて育てる力」が最重要ですが、後者では「社長の意図を正確に汲んで現場に翻訳する力」が優先されるかもしれません。

したがって、基準づくりの出発点は「世の中の管理職に必要な能力」のリサーチではなく、「自社の管理職には何をしてほしいのか」を自社の言葉で定義することです。次章で、その手順を5ステップに分解します。

管理職登用基準の作り方: 5ステップ

ここからが本記事の核心です。基準を「作って終わり」にせず、実際に運用できる形に落とし込むための5ステップを紹介します。

ステップ1: 自社にとっての「管理職の成果」を定義する

最初にやるべきことは、能力要件の洗い出しではなく、「管理職が機能している状態とは何か」を経営陣の言葉で定義することです。

具体的には、以下のような問いを経営陣・幹部で話し合います。

  • このチームが半年後、どうなっていたら「管理職がうまく機能している」と言えるか
  • 逆に、どうなっていたら「管理職が機能していない」と判断するか
  • 数字(売上・生産性など)と、数字に出にくいもの(チームの状態・部下の成長)のどちらをどの比重で見るか

この段階でよくある失敗は、いきなり「判断力」「傾聴力」といった能力ワードに飛びついてしまうことです。能力ワードから入ると抽象的な精神論になりがちなので、先に「状態(成果)」を定義し、そこから逆算して必要な能力を導く順序を守ってください。

ステップ2: 現職管理職の行動観察から評価項目を抽出する

成果の定義ができたら、次は理論ではなく自社の実例から評価項目を抽出します。具体的には、現在の管理職(うまくいっている人、いっていない人の両方)の行動を観察し、次のような違いを言語化します。

  • うまくいっている管理職は、部下との1on1で何を話しているか
  • 部下の不調にいつ、どうやって気づいているか
  • 判断に迷ったとき、何を優先して決めているか
  • うまくいっていない管理職は、何が足りていないのか(能力なのか、時間配分なのか、権限なのか)

ここで重要なのは、「自社の現職管理職」という実例をベースにすることです。書籍やWeb記事にある「理想の管理職像」を輸入すると、自社の事業特性や社風と噛み合わない基準になりがちです。うまくいっている人の行動を分解し、「これは今後の登用基準に入れるべき行動だ」と一つずつ言語化していく作業が、遠回りに見えて最も再現性の高い方法です。

ステップ3: 定量化できる項目とできない項目を切り分ける

評価項目が出そろったら、それぞれを「定量的に測れるもの」と「定性的にしか判断できないもの」に仕分けします。

  • 定量化しやすい例: チームの目標達成率、離職率、1on1の実施頻度
  • 定性的にしか判断できない例: 部下の変化への気づき、耳の痛いことを伝える力、任せ方の適切さ

ここで注意したいのは、「測りやすいもの」だけを基準にしてしまう罠です。定量指標は客観性が高く扱いやすい反面、それだけに寄せると「数字は達成しているが、部下がすり減っている」管理職を見逃します。定性項目は測定が難しい分、面談や360度的な聞き取りなど「どう観察して材料を集めるか」を併せて設計する必要があります。定量・定性のどちらか一方に偏らないバランスが、基準の実用性を左右します。

ステップ4: 一次評価者と二次評価者の役割分担を決める

基準ができても、「誰がその基準に照らして判断するか」が決まっていなければ運用できません。一般的には次のような役割分担が機能しやすいです。

  • 一次評価者(現場): 直属の上司や、日常的に候補者と接している管理職。定性項目(観察が必要な項目)の一次情報を持っている
  • 二次評価者(経営): 経営者や人事責任者。定量データと一次評価者の所見を突き合わせ、全社的な整合性(他部署の登用基準とズレていないか)を確認する

一次評価者だけに任せると身内びいきや部署間のばらつきが生じやすく、二次評価者(経営)だけで決めると現場の実態を無視した「かわいがり人事」になりがちです。両者を組み合わせ、現場の一次情報と経営の全社視点を突き合わせることで、どちらか一方の偏りを補正できます。

ステップ5: 登用後6か月のモニタリング指標を決める

基準づくりで見落とされがちなのが、登用して終わりにせず、登用後の一定期間をモニタリングする指標まで事前に決めておくことです。具体的には以下のような項目を、登用の意思決定と同時に設定します。

  • 部下の1on1実施状況(頻度・継続性)
  • チームの離職・異動の兆候
  • 本人からの相談内容の変化(業務の相談から、マネジメントの相談に変わっているか)
  • 6か月後に「成果」の定義(ステップ1)に照らしてどう評価するか

このモニタリング設計があることで、仮に登用がうまくいっていない場合でも早期に気づき、役割定義や時間配分の見直し、あるいはプレイヤー職への再配置といった軌道修正が可能になります。登用後に起きがちな「プレイヤー業務に逆戻りして機能不全に陥る」典型的な失敗パターンについては、プレイングマネージャーが限界になる理由で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

「誰が評価するか」の合意形成プロセス(専任人事不在企業の盲点)

ここまでの5ステップは、多くの解説記事でも部分的には触れられている内容です。しかし、実務でつまずくポイントとして最も見落とされやすいのが、「誰が評価するか」をどう決めるか、その合意形成の進め方です。

なぜこの論点が抜け落ちるのか

30〜100名規模の会社には、多くの場合、専任の人事責任者がいません。人事機能を社長や経営企画の担当者が兼務していることが一般的です。この規模特有の事情として、次の2つが同時に存在します。

  1. 経営者と現場の距離が近い: 大企業のように「人事部が中立的に判断する」仕組みがなく、経営者の個人的な印象が評価に強く影響しやすい
  2. 評価者を複数人で分担する体制が整っていない: 一次評価者・二次評価者という役割分担自体が初めてで、「結局、誰が最終判断者なのか」が曖昧になりやすい

この状態で基準の「項目」だけを整えても、実際の登用局面になると「社長の一存で決まってしまう」「現場の推薦がそのまま素通りする」といった運用になりがちです。基準表という体裁は整っていても、実質的には基準が機能していない状態です。

合意形成の進め方: 3つの場を設計する

これを防ぐために、基準そのものだけでなく、評価者間の合意形成の「場」を制度としてあらかじめ設計しておくことをお勧めします。

  1. 候補者リストアップの場: 一次評価者(現場責任者)が候補者を挙げる場を定例化する。社長の思いつきで候補者が挙がる状態を避け、必ず現場からの推薦を経由させる
  2. すり合わせの場: 一次評価者の所見と、経営側が持つ全社的な視点(他部署とのバランス、将来の組織図)を突き合わせるミーティングを設ける。ここで社長が一方的に決めるのではなく、一次評価者の意見に対して「なぜそう思うか」を問い、根拠を言語化させることが重要
  3. 決定後の説明の場: 登用が決まったら、なぜその人が選ばれたのかを、基準に照らして本人と周囲に説明する場を設ける。基準があっても、それが本人・周囲に共有されなければ「結局よくわからないまま決まった」という印象を残してしまう

専任人事がいない会社ほど、この合意形成のプロセスを属人的な力関係や社長との距離感に任せず、あらかじめ手順として決めておくことが、基準を形骸化させないための最後の砦になります。なお、基準の運用面や、実際に「誰を選ぶか」という個々の判断力を鍛える視点については、実績に頼らない人選の3基準で詳しく取り上げていますので、あわせてお読みください。

登用基準と等級制度の接続

登用基準は単独で機能するものではなく、等級制度・評価制度と接続して初めて実務上の効果を発揮します。管理職に登用するということは、多くの場合、等級が上がり、評価される項目や責任範囲も変わることを意味します。ここで登用基準と評価制度の内容が食い違っていると、「登用の基準では重視されていたはずの項目が、実際の評価では見られていない」という矛盾が生じ、現場の混乱を招きます。

なお、そもそも管理職という役割やマネジメント層自体が組織にまだ十分に育っていない、あるいは評価制度の導入を検討している段階の会社は、基準づくりより前にやるべきことがあるかもしれません。組織づくり全体の順番については、当メディアの他記事もあわせてご参照ください。

まとめ: 基準は「作って終わり」ではなく「運用しながら直す」もの

管理職の登用基準は、資質の一覧を作って終わりにするものではありません。本記事で紹介した5ステップを振り返ります。

  1. 自社にとっての「管理職の成果」を定義する
  2. 現職管理職の行動観察から評価項目を抽出する
  3. 定量化できる項目とできない項目を切り分ける
  4. 一次評価者と二次評価者の役割分担を決める
  5. 登用後6か月のモニタリング指標を決める

そして、基準の「項目」だけでなく、「誰が評価するか」の合意形成プロセスまで設計することが、専任の人事担当者がいない30〜100名規模の会社にとって特に重要な論点です。

基準は一度作って終わりではありません。実際に運用してみて、うまく機能しない部分が見つかれば、その都度見直すものだと捉えてください。まずは自社の現職管理職を観察するところから始めてみてください。

※本記事は組織・人事制度設計に関する一般的な考え方を解説したものであり、個別企業における制度設計や評価・登用に関する法的な判断が必要な場合は、社会保険労務士など専門家への確認をお勧めします。

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