新任マネージャーが最初にハマる沼があります。
新任マネージャーから相談を受けるとき、8割は同じことを言います。
「自分でやった方が早いんですよ」
わかります。部下に任せると時間がかかる。品質も落ちる。締切は待ってくれない。だから自分でやる。短期的には完全に正しい判断です。本人が優秀であればあるほど正しい。
だからこそ、抜け出せない。
半年後、チームは育っておらず、本人は疲弊し、組織の成長はこのマネージャーの処理能力という天井にぶつかっている。私が見てきた30〜100人規模の成長企業で、この現象が起きていない会社は一つもないと言っていいくらいです。
「本人の意識の問題」ではない
ここで多くの会社がやる対処が「任せることを覚えなさい」という説教です。
ほぼ効きません。
なぜかというと、環境がそうさせているから。プレイヤーとしての目標数字は据え置きのまま、マネジメント業務が「追加」されている。評価は個人成果で決まる。目の前には今日の締切がある。この環境で「任せよう」と意識を保てる人間は、ほとんどいません。
意志で負けているのではなく、構造で負けている。 構造の問題を意識で解こうとするから、何も変わらないんです。
データが物語っていること
産業能率大学総合研究所が「上場企業の課長に関する実態調査」というものを継続的にやっています。このデータが強烈で、最新の調査では課長の約95%がプレイヤーとマネージャーを兼務していると自認しています。
そして約6割が「プレイヤー業務がマネジメントに支障がある」と答えている。
上場企業ですらこれです。管理職育成の仕組みを持たない30〜100人の企業では、状況はもっと深刻だと考えるべきでしょう。
もう一つ注目すべきデータがあります。同調査で課長の悩みの第1位は、調査を重ねても一貫して「部下がなかなか育たない」。これは当然で、自分で全部やっている人の下で、部下が育つわけがない。
3つの処方箋——全て「会社が」やること
ここから先は、本人に求めることではなく、経営者や人事が整えるべき設計の話です。
時間配分を「会社が」決める。 「マネジメント業務に最低30%の時間を使うこと」を本人任せにせず、会社の決定として明文化する。週の前半に1on1を固定するなど、カレンダーに構造を入れてしまう。本人に委ねると、100%プレイヤーに戻る。目の前の締切は常にマネジメントより緊急に見えるから。
「任せて遅れた」を責めない評価に変える。 部下に任せれば一時的に品質も速度も落ちます。この育成コストを評価がどう扱うかで、マネージャーの行動は決まります。任せた結果を責めるなら、二度と任せない。「部下が先月できなかったことを今月できるようになった」をマネージャーの成果として認める。個人成果の評価のままマネジメントを求めるのは、ブレーキを踏みながらアクセルを要求しているのと同じです。
社長が、本人のプレイヤー業務を物理的に減らす。 これが一番大事で、一番やられていない。担当顧客を一部移管する。社長案件から外す。本人の仕事を具体的に「引き剥がす」。権限委譲しろとだけ言って、仕事量はそのまま——これは構造的に不可能なことを要求しています。任せる余白は、作ってあげなければ生まれない。
定義を変えると、行動が変わる
最後に一つだけ。
多くの会社で「任せる」は、マネージャー個人の我慢や美徳として語られます。「もっと任せなきゃダメだよ」と。
そうじゃなくて、**「部下に任せられる状態を作ること自体がマネージャーの成果だ」**と会社が定義し直してほしい。任せるのは我慢ではなく成果。育成コストは損失ではなく投資。時間配分は本人の工夫ではなく会社の設計。
この定義を経営者が言葉にできるかどうかで、管理職の育ち方は変わります。プレイングマネージャー問題は、マネージャーの問題に見えて、実は経営の設計の問題です。
管理職の選び方は管理職の人選を、組織づくりの全体像はピラー記事をご覧ください。
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