「「評価制度を入れたら、エースから辞めていった」

この話を、私はもう何度聞いたかわかりません。

社員30〜50人の成長企業。社長が「そろそろちゃんとした評価制度が必要だ」と考え、設計に数ヶ月、導入に数ヶ月。ようやく動き始めた初回の評価で、一番辞めてほしくなかった社員が退職届を出す。

笑い話のように聞こえるかもしれませんが、現場で何度も見てきた光景です。そして毎回、経営者は同じ疑問を持つ。「制度の設計が悪かったのか?」と。

違います。制度の中身の問題ではない。順番の問題です。

評価は「3工程の最後」にある

評価の仕組みを分解すると、本来は3つの工程でできています。

観察。対話。そして評価。

日常的に部下の仕事を観察して、定期的に対話して期待をすり合わせて、その積み重ねの末に評価する。この順番が機能しているとき、評価結果に社員は納得します。たとえ評価が低くても。なぜなら「この人は自分を見てくれている」と感じられるから。

問題は、管理職が育っていない会社で制度だけ入れると、この3工程のうち1と2が抜け落ちることです。観察もなく対話もなく、いきなり期末に点数がつく。社員から見えるのは「自分の仕事をよく知らない人に、よくわからない基準で査定された」という事実だけ。

制度を入れる前より、明確に状況が悪化するんです。

なぜ「エースから」辞めるのか

ここに構造的な必然があって、私はこの現象を経営者に説明するとき、いつもこう言います。

ギャップに最初に気づく人と、最初に動ける人が、同一人物だからです。

エース社員は自分の貢献を正確に把握しています。だから、雑な評価と実態との差に誰よりも早く気づく。そしてエースには転職市場での選択肢がある。気づいた瞬間に動ける。

結果、評価制度の失敗は、組織の中で最も失ってはならない人から順に流出させる。残るのは「評価が雑でも気にしない人」と「動くほどの選択肢がない人」。最悪の人材選別です。

SmartHRも最初の制度設計で失敗している

これは大企業や古い会社に限った話ではありません。SmartHRの組織づくりを外部から支えた人事コンサルタントが、公の場でこう語っています。

最初に導入したMBO(目標管理制度)はうまく機能しなかった。技術手当も納得感が得られず撤廃。セールスインセンティブも売り込み偏重を招いてすぐ中止した、と。

SmartHRほどの企業でも、制度設計は一発で正解にたどり着かない。ただし、同社がすごいのは「試してダメなら議論してすぐ変える」というスタンスで突破したこと。そしてこれが機能した背景には、制度を回す管理職がちゃんと育っていた、つまりStructureが先に整っていたという前提がある。

正しい順番——制度の「前」にやるべきこと

私がクライアントに提案する順番はこうです。

まず管理職の役割を定義する。次に、その管理職に1on1を回させる。観察と対話が3〜6ヶ月安定して回って、「見てくれている」という信頼が醸成されてから、初めて制度を入れる。

制度の中身は最初からシンプルでいい。等級は3〜4段階、評価項目は数個。走りながら直す。SmartHRが証明した通り、制度は完成品ではなく育てるものです。

ただし、この「観察→対話→評価」の順番だけは守ってほしい。逆から入ると、制度が信頼を壊す装置になる。それが、エースが辞めるメカニズムです。

組織づくりの全体像(Structure→System→Staffing)についてはピラー記事を、管理職の育て方については管理職の人選をご覧ください。


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